学校であった怖い話
>五話目(細田友晴)
>P7

でもさ、先生に名指しで呼ばれたんだし、この人とは一緒に行けません、なんて言えないよな。
本人の手前もあるしさ……。

廊下を気まずそうに歩く二人。
僕は、神さまにお願いしたよ。
どうか、変なことを彼が言い出したりしませんように……。
「……細田君、最近僕のこと避けていないかい? 僕のことを嫌っているの?」

津田君は、僕に向かってぼそっと呟いたんだ。
まったく、こんなお願いを神さまにするんじゃなかった。
「え? そんなことないよ。なに、馬鹿なこといってるんだい? 早く準備室に行こうよ」
僕は焦って言った。

準備室には、色々な器具が置いてある。
部屋はとても狭い。
先生に、三脚とアルコールランプと石綿を持ってくるように頼まれていたんだ。

さっそく、トレイにそれらの器具を詰め込んで準備室を後にしようとしたよ。
一刻でも早く、この密室から出ないといけないと思ってね。

すると、出口に津田君が立って僕を見つめているんだ。
さっきから、僕の行動をずっと目で追っていたらしい。
例の、餌を見るような目つきでね。
僕は思わず後ずさりした。
「やっぱりそうだ。さっきのは嘘だろ? 僕のことを確かに避けているね」

津田君は、僕から目を離さずにいった。
彼は笑っている。
獲物を追いつめたような笑いだった。

そして、ゆっくり僕に近づいてきたんだ。
僕は、クモの巣にかかった虫のように、身じろぎもできなかった。
それが、津田君にもわかっているようだった。

あせりもせず、ゆっくりとゆっくりと近づいてくるんだ。
「……細田君、太っていておいしそうだねぇ。
どんなものを食べたら、そんなにおいしそうになれるんだい?」
彼は確実に僕の方ににじり寄ってくる。
僕は、とっさにアルコールランプに火をつけようとした。

……しかし、マッチを入れ忘れていたらしく火を点けることが出来ない。
もうダメだ……、僕もあの虫たちのように、彼の餌になるのか……。
そう思った瞬間、どこから入ったのかオニヤンマが彼と僕との間に割って入っていた。

オニヤンマとは、トンボだが普通のものよりかなり大きく、黄色の黒のしまがある肉食の大型昆虫だ。
そのオニヤンマは、しばらく彼を見ていたかと思うと、突然、彼の首に食らいついたんだ。
「ひっ!」
彼は声を漏らした。

だけど、それはすぐに彼の首から離れたよ。
そのオニヤンマの触手には、確かに女郎グモが捕まっていたのを僕は見た。
そして、そのままどこかへ飛んでいってしまったのさ。

どこかで、ゆっくりと食べるんだろうか。
それよりも、津田君は……。
津田君は、僕に襲いかかろうとしたその姿勢のまま止まっていた。

僕は、逃げたよ。
津田君のことを放ってね。
教室に戻ると、まだ授業中だった。
先生は、僕が真っ青な顔をしてるんで、驚いていたよ。
そして、そのまま僕は倒れた。

気がついたら病院のベッドだった。
僕は、助かったんだ。
そして、全身で生きてる喜びをかみしめたのさ。
「細田君」
突然、誰かが僕を呼ぶ声がするんだ。
不思議に思って声のするほうを振り向くと……。

津田君だった。
津田君が、僕の隣で寝ていたんだ。
その時のショックったら、とても言葉じゃ言い表せないよ。
本当に心臓が止まりそうだったもの。

その時、僕はどうしたと思う?
1.津田君と戦う
2.じっとする
3.看護婦さんに助けを求める