学校であった怖い話
>五話目(細田友晴)
>P8

僕はとっさに、津田君に襲いかかったんだ。
僕は、彼に馬乗りになり彼の首を絞めたんだ。

するとどうだい、彼の口から女郎グモが湧いて出てきたんだ。
あの、一匹だけじゃなかったんだ。
僕は、彼の首から手を離すと口の中に手を突っ込んで、胃の中の物を全部吐かせたんだ。

「うげっ。うげげーー!」
彼の口から、胃の中の物に混じって何匹もの女郎グモがうごめきながら出てきたんだ。
そして、僕はそのクモたちが逃げないうちにスリッパで叩き殺したよ。

あの感触は今でも忘れない。
僕は、体中の力が抜けていったよ。
女郎グモは殺したけれど彼が心配で、僕は呼びかけてみた。
「津田君……。津田君?」
ゴホゴホと咳込んでいる。

さっきのは、ちょっとやり過ぎたかもしれない。
でも、ああでもしなければ彼はどうなっていたかわからないんだし……そう自分に言い聞かせた。

津田君は、こちらを振り向いた。
むせていたので、涙を流している。
僕は、彼に思い切って尋ねてみたんだ。

「……津田君さ。僕を食べてみたいと思うかい?」
津田君は、きょとんとしていたよ。
そして、大声で笑いだしたんだ。
「あっはっは……。何を言い出すんだよ、細田君は。頭がおかしくなっちゃったのかい?」

笑う津田君は、いつもの津田君だった。
あの目じゃなかった。
僕は、安心して、長いため息をもらしたよ。
そしたら、今度は津田君が急にまじめな顔をしていうんだ。

「……僕ね、この数日間の記憶がないんだよ。
どうしちゃったのかなあ。あの体育館の脇のトイレに行って、そこで女郎グモが僕の肩に乗っていて……。それから、覚えていないんだ。そして気がついたら、病院のベッドの上だったってわけさ。変だろ?」
僕は、その言葉に促されるように頷いてしまったよ。

「でもさ、このベットの周りの汚れって、ひょっとして僕がもどしちゃったの? はずかしいなぁ、もう……」
彼は陽気に笑った。
本当に、何にも覚えていないらしい。

多分、津田君は女郎グモに操られていたんだと思う。
もちろん、そんなこともいわなかったよ。
まあ、津田君が普通に戻ったんだからね。
一件落着ってわけだ。
今でも、津田君は普通に学校に通っているよ。
元気でね。

ただ、時々虫を見るとき、あの目をして、うまそうに舌なめずりするんだ。
そして、津田君が大口を開けて笑うとき、口の中から糸を吐き出したり……。
でも、もう怖くない。
そんなのは、ちょっとした後遺症だからね。

代わりに、津田君は何でもおいしそうにバクバク食べるようになったし、虫も怖くなくなったんだ。

どうだい、坂上君。
これで君は、あのトイレにまつわる話を信じてくれるかな?
1.信じる
2.信じない
3.津田君に会えば信じるかもしれない