学校であった怖い話
>五話目(細田友晴)
>T8

僕は、看護婦さんに助けを求めたよ。
大声でね。
すぐに、看護婦さんは駆けつけてきてくれた。
今考えると、ナースコールで呼べばよかったのにね。
その時は、そんなことは考えられなかった。

「どうしました!?」
僕は、看護婦さんに今までのことをすべて話した。
当然信じてくれるはずがないよね……そんな馬鹿な話なんてさ……。
僕は精神安定剤を注射されたよ。

どのくらい僕は眠っていたのか、目を覚ますと隣のベットには津田君はもういなかった。
もう夜らしい。
まだ、消灯にはなっていなかった。
ということは、今九時前か……。
そして、ふと天井を見た。

「!?」
もう一度、目を凝らしてみた。
確か今、女郎グモがあそこに……。
僕は、まんじりともしない夜を過ごしたよ。
翌日、津田君がお見舞いにきてくれた。

「細田君、大丈夫かい?」
彼は、心配そうに僕にいった。
僕は、彼と目をまっすぐ合わすこともできない。
……気まずい沈黙が流れる。
僕は、彼に思い切って尋ねてみたんだ。

「……津田君さ。僕を食べてみたいと思うかい?」
津田君は、きょとんとしていたよ。
そして、大声で笑いだしたんだ。
「あっはっは……。何を言い出すんだよ、細田君は。頭がおかしくなっちゃったのかい?」

笑う津田君は、いつもの津田君だった。
あの目じゃなかった。
僕は、安心して、長いため息をもらしたよ。
そしたら、今度は津田君が急にまじめな顔をしていうんだ。

「……僕ね、この数日間の記憶がないんだよ。
どうしちゃったのかなあ。あの体育館の脇のトイレに行って、そこで女郎グモが僕の肩に乗っていて……。それから、覚えていないんだ。そして気がついたら、病院のベッドの上だったってわけさ。変だろ?」
僕は、その言葉に促されるように頷いてしまったよ。

そして、屋上で見たことや保健室であったことは内緒にしておいた。
だって、そんなことをいっても、津田君は信用してくれないと思ったからさ。
多分、津田君は女郎グモに操られていたんだと思う。
もちろん、そんなこともいわなかったよ。
まあ、津田君が普通に戻ったんだ

からね。
一件落着ってわけだ。
今でも、津田君は普通に学校に通っているよ。
元気でね。

ただ、時々虫を見るとき、あの目をして、うまそうに舌なめずりするんだ。
そして、津田君が大口を開けて笑うとき、口の中から糸を吐き出したり……。
でも、もう怖くない。
そんなのは、ちょっとした後遺症だからね。

代わりに、津田君は何でもおいしそうにバクバク食べるようになったし、虫も怖くなくなったんだ。

どうだい、坂上君。
これで君は、あのトイレにまつわる話を信じてくれるかな?
1.信じる
2.信じない
3.津田君に会えば信じるかもしれない