学校であった怖い話
>五話目(細田友晴)
>V6

そうだよね。
自分の目で見なきゃ、そんな気持ち悪い話、信じられないよね。
僕もそうだった。
坂上君と同じだったよ。
でもね、今は違う。
僕は、信じてるよ。
どうして信じるようになったのかって?

……実は、僕の友達が被害にあったんだ。
あのトイレを使ったおかげでね。
その友達の名前は、津田圭一っていうんだ。
津田君はね、何もおもしろがって、あのトイレを使ったわけじゃないんだ。

一応、あのトイレにまつわる話は知っていたしね。
それに、虫が大嫌いだったし。
津田君の場合は、虫が嫌いっていっても、逃げ出すようなタイプだった。
虫を殺すどころか、近づくこともできないタイプだったよ。

だから、好き好んで、あんな噂のあるトイレになんか行くわけないんだ。
それでも、ある日、体育の授業が終わって、突然トイレに行きたくなってさ。
もらすよりいいから、仕方なく行ったんだよ。

……幸い、虫はいなかった。
それでも、壁いっぱいにどす黒い染みがあってね。
それが、虫を潰した染みであることは、すぐにわかった。

そして、できるだけ見ないように見ないようにして、急いで用を足したんだ。
息も止め、目もつぶり、トイレから出ることだけを考えた。
そして、用がすむと、急いでダッシュした。

トイレの外は、まったくの別世界だった。
そして大きく伸びをして、深呼吸をしたとき。
「ぎゃっ!」
津田君は、思わず叫んでしまったんだ。

見ると、肩にでっかいクモがいるじゃないか。
黄色と黒の縞々の腹を持った大きな女郎グモだった。
トイレに行ったときに、ついてきてしまったのかと思い、彼は飛び上がって体を震わせた。
肩から落ちた女郎グモは、そのままかさかさと逃げていってしまったんだ。

津田君は、それでもまだ心臓がどきどきしていたよ。
そして、それ以外にも虫がついているんじゃないかと、不安になった。
けれど、捜せないんだ。怖くてね。
虫が嫌いな人って、そういうもんだよ。
もし、背中についていたらどうしよう、頭に乗っかっていたらどうしよう。

そんなことを思いながらも、怖くて確かめることができないのさ。
体が固まってしまってね。
それほど、虫が嫌いだし、怖かったんだ。
そして、もう二度とあのトイレには近づくまいと、決心したのさ。
それから何日かたったある日。
あれは、昼休みのときだった。

僕が弁当を食べて屋上に行ったとき、ベンチで津田君が一人で弁当を食べているんだよ。
津田君は、食が細くてね。
いつも、まずそうに食べるんだよ。
僕なんか、食事のときが一番幸せなんだけどね。

津田君は、正反対だった。
仕方なく、無理して食べているようだったよ。
ところが、どうだい。
その時は、人が違ったようにモリモリ食べているじゃないか。

ものすごい勢いで、弁当箱の中のものをかっこんでいるのさ。
僕は、手を振って近づいていったよ。
「おーい、津田君!」
津田君は、僕にチラッと目を止めただけで、一時も箸を持つ手を休めない。

よっぽど、うまいものを食ってるのか。
それなら僕も一つもらおうかな、なんて思いながら近づくと……。
僕は、今さっき食べたものを戻しそうになってしまったよ。

彼が食べていたのは、ハエだったんだ。
弁当箱には、山盛りのハエが入っていてね。
僕が側にいるのがわかっているのに、彼は一心不乱になって食べていたよ。

それで、弁当箱いっぱいのハエを平らげると、とても満足そうに口を拭い、ため息をついたんだ。
そして、僕を見た。

「どうしたんだい、細田君」
僕が立ちすくんでいるのが不思議なように、そんなことをいうんだ。
そして、弁当箱のふたを閉めると、僕の横を通りすぎ、下へおりていってしまった。

僕はしばらくの間動けなかったよ。
今でも、彼の僕を見る目が忘れられない。
あれは、友達を見る目じゃなかった。
いや、そんな生易しいもんじゃないね。
人間を見る目じゃなかったよ。
あれは、餌を見る目だったよ。

僕は、それから津田君には近づかないことにした。
だって、そうだろ。
たとえあれが僕の見た幻だったにしろ、あの目で見られるのはごめんだよ。
それでも不幸は向こうからやってくるもんさ。

科学の授業中、実験器具を取りに行くことになったんだ。
先生のご指名でね。
「細田と津田、悪いけど準備室に行って、器具を運んできてくれないか」

ねえ、坂上君だったらどうする?
おいしそうにハエを食べるような奴と、二人きりになりたいかい?
1.一緒に行く
2.先生に頼んで別の人にしてもらう