学校であった怖い話
>五話目(岩下明美)
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二人ともロミオとジュリエットみたいな気分になっちゃったんでしょうね。

よりによって、夜中に抜け出して会おうとしたの。
でも、運悪く見つかってしまったのね。
二人の家族の怒りようといったらものすごかったわ。
お互いに、相手にたぶらかされた、みたいなことをいうものだから、どんどん険悪になってしまって……。

二人は、本当のロミオとジュリエットのようになってしまったの。
でも、そんなことで愛がさめたりはしなかったわ。

今度は、電話作戦で行くことにしたの。
親が出たら切られちゃうから、かなり気を使わないといけないけどね。
お互いの家族の行動パターンを調べて、一番確実そうな時間を割り出したのよ。

毎晩九時。
それが二人の約束の時間だった。
毎日、日替りでお互いに電話をかけあったのね。
九時になると、こっそりと電話を自分の部屋に持ち込んで、小さな声で話し合う。

時には、一晩中話すこともあったわ。
長電話で親に怒られても、これだけはやめられなかった。
そしてそれは絶え間なく続いたわ。
学校が休みの日も、どちらかが家族で旅行に行っているときもね。
一日も欠かさず、二人は愛を確かめあったの。

私たちのクラスでも、二人の仲のよさは有名だった。
ケンカするほど仲がいいというけれど、二人の場合だけは例外だったんでしょうね。
二人がケンカをしているところなど、誰も見たことなかったんですもの。
そんなある日のこと。

伊達君のほうが、クラブ活動で遅くなってしまったのね。
これから家に帰って電話をかけても間に合わない。
それで、学校から電話をかけたの。

学校の裏門の脇に置いてある公衆電話。
知ってるでしょう?
あそこから、電話をかけたの。
でもね、あの電話、知っている人だったら使わないわ。

どうしてかって?
だって、あの電話って悪魔の電話なんですもの。
……おかしい?
ひょっとして、私のこと馬鹿にしてるんじゃないの?
……まあ、構わないけれど。
もう、あなたは私の恋人だから。

それで、その悪魔の電話を使ってしまったの。
彼、何も知らなかったし。

「……もしもし、俺」
「あ、伊達君。あれ? 今日は家からじゃないの」
「今日は学校が遅くなるっていったじゃん。そしたら、こんな時間になっちゃってさ。今、学校から電話してんだ」
「そうなんだ。気をつけて帰ってね」
「ああ、ありがとう。ごめんな、今日はあんまり話せなくて」

「……ううん、いいの。また明日、学校でね」
「おう、じゃあな」

いつもより、ずっと簡単な電話だった。
また明日も学校で会えるんだし、そして明日の夜は今日の分も含めてたっぷりと電話しよう。
そう思えば、別に寂しくもないし、つらくもない。
その次の日だったわ。

いつもの夜九時。
電話のベルが鳴った。
矢口さんは、変だなと思いながらも反射的に受話器を取ったの。

「……もしもし」
「あ、矢口さん。俺」
「あ、伊達君。どうしたの?」
「どうしたのって? いつもの時間だろ?」

「ううん、そういうことじゃなくて。
昨日は、伊達君だったでしょ。今日は、私が電話をする番だったから」
「なんだ、そんなことか。……だって俺、待ち切れなかったんだ。昨日のことがあっただろ。少しでも早く、矢口さんの声が聞きたくって」

「……まあ、やだな、伊達君たら。あのさあ……」
二人は、話したわ。

時のたつのも忘れて、長々とね。
いつになく、満足のいく電話だった。
すっきりして、矢口さんは眠りについたの。

次の日の朝、矢口さんは、学校で伊達君の姿を見つけて手を振ったわ。
「伊達くーーーーん!」
でも、伊達君はつれない素振りだった。
いつもだったら、手を振り返してニッコリとほほえんでくれるのに。

何かよそよそしい感じがしたわ。
まるで、いつもの伊達君じゃないみたいな……。
矢口さんは、自分が何か悪いことでもしたのか心配になって駆け寄ったわ。

「……どうしたの、伊達君。何か怒ってるの」
伊達君は、目を伏せると無愛想に答えたの。
「何で昨日電話くれなかったんだよ」
「え?」
矢口さんには、伊達君のいっている意味がわからなかった。

だって、昨日、あんなに長々と電話したんですもの。
あれは、確かに伊達君だった。
毎日、電話してるんですものね。
彼の声を間違えるわけないわ。

「俺、昨日の夜、何回も電話したんだぜ。それなのに、ずっと話し中だった。いったい、誰と話していたんだよ」
彼は、ふて腐れていたわ。
単に妬いているだけなんだけどね。

けれど、彼の言葉は、矢口さんを驚かせるのに十分だったわ。
「……嘘。私、昨日はずっと伊達君と話したじゃない。だって、伊達君から電話がかかってきて……」
「そんな、すぐばれるような嘘をつくなよ! もう、いいよ!」
取りつく島もなく、彼は怒って仲間の男子生徒たちとどこかへ行ってしまったわ。

みんな、驚いてた。
だって、あの二人がケンカするなんて初めてだったんですもの。
その日、初めて二人が別々に行動しているのをみんなは見たわ。

その日の夜、矢口さんは、一人で部屋で泣いていた。
だんだんと、いつもの時間が近づいてくる。
伊達君と甘い一時を過ごすいつもの時間が……。
彼女は悩んだわ。
電話をするべきか。

どうしたと思うかしら?
1.電話をした
2.電話を待った