学校であった怖い話
>六話目(荒井昭二)
>B6

どうしたんですか?
坂上君は、この人形の話に興味を持たれたんですか?
それとも、金井君に興味があるとか?

……まあ、いいでしょう。
早めに話を切り上げようと思ったんですがね。
そんなに聞きたいのならば、話を続けましょうか。
金井君の悲劇の話を。

金井君が今年の犠牲者であるということは、あのグラウンドでの出来事以来、もっぱらの噂になりました。
そして、それ以来、彼に同情の目を送る人々が増えたのも事実です。
それからは、金井君の奇行が目立ち始めました。

テスト中に、いきなり答案用紙を破り始めたかと思うと、頭を抱えて叫んだり……。
「僕に構わないで! 僕は、行きたくないんだ! だから、僕を誘わないでくれよ!」
そして、そのまま机に突っ伏して気を失ってしまったり……。

そんな様子を見ても、先生は何も見なかったように平静を装っていました。
「……金井の調子が悪いようだな。
誰か、保健室に連れてってやれ」
その一言で、片付けてしまうんですよ。

間違いなく、それが人形の仕業であることはわかっているのに。
ひどいもんですね、教師なんていうものは。
きっと、校長に口止めされているか、何かもらっているんでしょう。

金井君がやせ細っていくのは、誰が見てもわかりました。
もともと、そんなに体格がいいほうではありませんでしたが、焼却炉で人形を見てから一週間とたたないうちに、まるでガイコツのようにやせ細ってしまいました。

そして、金井君の周りには、日増しに人が近寄らなくなっていったんです。
でもそれは仕方ないことでしょう。
近くにいるだけで、首を絞めようとしたり、暴れだしたりするんですから。

金井君が人形の生けにえになるより先に、側にいた人のほうが先に殺されそうな状態でしたからね。
それほど、金井君の様子は危なかったんです。

先生も、学校を休むようにいいました。
それは、心配しているというよりも関わりたくないからいっているように思えました。
けれど、金井君は休もうとしませんでした。
学校に来ることが義務づけられているかのように、何があろうと学校に来たんです。

授業を受けているだけでつらそうでした。
椅子に座っているだけなのに、げんなりしてため息ばかりもらすんですよ。
先生はもう何もいいませんでした。

一週間も過ぎたころでしょうか。
すべての授業が終わり、僕が帰ろうとすると……。
僕の席の隣に、金井君が立っているんですよ。
何かいいたそうに、そしてつらそうに。

正直いって、怖くなかったといえばうそになります。
僕は努めて普通に振る舞おうとしたんですが、態度には表れるものですね。
自然と、目をあわせないようにしていたようです。

「僕のこと怖いだろ? 誰も僕の話を聞いてくれないんだ。……頼むよ。相談に乗ってくれないか?」
きっと、幽霊の声ってああいう声をしているんだと思います。
聞き取れるか聞き取れないかわからないほどのか細い声なのに、妙に頭に響いてくる声。

そして、頼まれたら、思わず断れないような陰に満ちた迫力。
僕は、誘われるままに頷いてしまいました。
みんなの金井君を見る同情の視線は、僕にも広がっていました。

「……帰りながら話そうか」
僕は、できれば教室で話がしたかったんです。
そのほうが、まだ人がいますから。
何かあったときに、助けてくれると思ったんですよ。
でも僕は彼のいう通りにしました。
なぜか、頷かざるを得ない雰囲気だったんです。

坂上君。
こんな僕のこと、情けない男だと思いますか?
1.情けないと思う
2.そんなことないと思う