学校であった怖い話
>六話目(荒井昭二)
>K3

そういえばそうですかね。
手作りの人形なんかは、特に暖かい感じがするっていいますよね。
人形の手、足、顔はもちろんのこと洋服や着物だって一針一針人の手で縫うわけですよね。
ですから、手作りなだけに人形にこもっている想いとかとても強そうで、私は嫌ですけどね。

日本で有名な人形師がいるんですが、その人が作った人形は笑ったり、怒ったり、動いたりといろんなことをするそうです。
その人形というのが、なんともいえずミステリアスで目は切れ長で黒目がち、肌の色は限りなく白く透き通るようです。

そして、あの人形師が作る人形には、人を引きつける何かを感じます。
坂上君が、どういった意図で人形が暖かいなんていったかはしりません。
でも、この話を聞けば人形が暖かいなんていえなくなりますよ。

ええ、学校に住む人形の話ですよ。
その人形が、いつからこの学校にいるのかわかりません。

でもいることは間違いないんです。
そしていつの間にか現れるんです。

坂上君、私が何を話そうとしているのか、わかりませんか?
その人形って、いったい何なのか、不思議に思いますか?
そうですね、思って当然だと思います。

坂上君も、最初はこの話に戸惑うかもしれません。
でも、大丈夫です。
僕の話が終わるときには、あなたもこの学校に住む人形の話を信じていると思いますから。

この人形に関する話はいくつもあります。
それほど、有名な話ということですよ。
どんな人形かって?

……そうですね。
しいていえば、とても人間に近い、人間に似ているといいましょうか。
大きさも等身大です。
心持ち、人間より小さい程度ですか。
そうですね、大きな子供くらいと思っていただければいいでしょう。

肌は真っ白で、髪は黒く、大きな瞳が特徴的な人形なんですよ。
美しい人形なんですが、見方を変えれば、人間に似すぎていて気味悪いともいえるでしょうね。
すべての関節は動くように作られていて、実に精巧にできているそうですよ。

ただ、口だけは開きません。
より、人間に似せるために作られているからでしょうね。
どうしても、口が開くと腹話術の人形のようになってしまいますから。

顔立ちは……そうですね、女性のように思えます。
でも、人によっては美しい少年のようにも見えるそうですし、男性とも女性ともとれぬ中性的な美しさというのが、一番あっている表現でしょうか。

その人形は、誰が作ったかも、もちろんわかりません。
それに、僕もよくわからないんですよ。
実際に、僕が見たわけじゃありませんし、いろいろな人から聞いた話をつなぎ合わせただけですから。

だから、多少話の食い違うところもあるんですよ。
人によっては、恐ろしいほど目が大きかったとか、耳がとがっていたとか口が大きく開いていた……ともいわれています。

どうして、そんなに情報が食い違うのかって?
だって、仕方ないんです。
その人形を見た人は、今は誰も残っていないんですから。
なぜなら、死んでしまうんですよ。
その人形を見た人は、一人残らずね。

でも、人形はいるんです。
間違いなく、この学校にね。

どうしてだか、わかります?
坂上君は、まだ一年生ですからね。
知らないかもしれません。
でも、僕たち二年生以上は知っていますよ。
そして、いつも恐怖におびえているんです。
いつ、自分の順番が来るかとね。

……この学校はね、毎年一人、人形に生けにえを捧げているんですよ。
捧げるというよりも、生けにえになってしまうというほうが正しいですね。
実際、一人かどうかもわかりません。

最低一人というだけで、本当は何人もの生徒たちが犠牲になっているかもしれませんから。
坂上君も、今こうして怖い話を聞いていたでしょう?
そして、これからも、その類いの話を聞くと思います。

でもね、その話に登場した人たちの少なくとも何人かは、その人形に殺されたという噂もあるんですよ。
どんな形で死ぬにしろ、その陰には一体の人形が付きまとっているんですよ。

生けにえに選ばれた人々は、必ず人形の姿におびえるそうですよ。
……そうそう、人形の生けにえになって死ぬのは、ちょうど今頃の季節なんですよ。

今年はまだ誰も生けにえになった話は聞いていませんから……。
たぶん、もうそろそろ今年の犠牲者が出るかもしれませんね。

それで、僕が話すのは、去年人形の生けにえになってしまった犠牲者の話です。
去年の犠牲者は僕のクラスからでたんですよ。
僕のクラスメートの、金井章一君という生徒でした。

彼は、いつも何かにおびえているような目でおどおどしていました。
ああいう性格だったんでしょう。
後ろから声をかけると、必ずびっくりしていました。
それに、どこかで物音がすると、その原因がわかるまで不安そうに、きょろきょろしてましたよ。

最初は、一緒にいる僕たちまで、何があったのかと驚きましたが、それが彼の性格であり、くせであることがわかると、もう慣れっこになってしまいましたよ。

だから逆にわからなかったんです。
彼が人形におびえていたことがね。
僕が記憶するに、彼が最初に人形のことを話し始めたのは焼却炉の脇を通ったときのことだったと思います。

四、五人で、放課後に何気なくあの辺を歩いていたんです。
焼却炉の前を通ったときでした。
急に、金井君の足が止まったんです。
そして、いつもの何かおびえるような目で、焼却炉のほうをじっと見つめてるんですよ。

それに、最初に気づいたのは僕でした。
そのころには、もう彼のくせに慣れていましたから、大して気にも留めませんでしたけれど。

「どうしたの? また、何かいたのかい?」
僕は、できるだけおどかさないように声をかけました。
すると、彼は声を震わせていったんです。
「……人形がいる。焼却炉の中で、人形が僕のことを呼んでいるんだ……」

そんなことを口走ると、ふらふらと焼却炉のほうに近づいていったんですよ。
僕は、びっくりしました。
だって、焼却炉はちょうどゴミを燃やしているところで、真っ赤な炎がごうごうと燃え上がっていたんですから。

「どうしたんだよ、金井君。危ないじゃないか!」
仲間も一緒になって止めました。
「……でも、呼んでるんだ。僕は、呼ばれたから、側に行ってやらないと……」
もし僕たちがいなかったら、彼は間違いなく焼却炉の中に身を投げていたと思います。

僕たちが止めたことが功を成したのか、しばらくすると彼はふっと立ち直り、何事もなかったかのようにすたすたと歩き始めました。
それからの彼は、ことあるごとに人形の姿を見るようになりました。

どうですか、坂上君。君は、金井君の見たものを幻だと思いますか?
それとも、人形は本当に存在したと思いますか?
1.幻だと思う
2.人形は実在したと思う
3.まだ何ともいえない