学校であった怖い話
>六話目(細田友晴)
>H17

助けるなんて無理だ。
手を伸ばしても、天井には届かない。
僕にできることなんて、何もないんだ。
逃げてしまおう。
僕はトイレから出ていこうとした。

「坂上君っ!?」
細田さんの悲痛な声が聞こえた。
「ごめんなさいっ!」
そう叫んで僕は飛びだそうとした。
ところが、足が動かない。
それどころか。

「うわっ!?」
突然、体が宙に浮いた。
細田さんのすぐ横に、たたきつけられる。
ショックで、肺から空気が絞り出された。
思わずむせる。
せきこんでいる僕の肩を、誰かがつかんだ。

「ひどいよ、坂上君!」
細田さんが眉をつり上げ、僕をにらみつけていた。
「僕を見捨てて帰ろうとしただろう!」
今まで見たこともないような、怖い顔だ。
殴られるかもしれない。

でもその時、細田さんの視線が、僕の背後に移った。
その顔が、恐怖に歪む。
「あ……あ……あ……」
言葉を忘れてしまったように、細田さんはうめき声を上げ続けていた。
僕は、彼の視線を追って振り向いた。

その途端、僕は、背中に冷水を浴びせかけられたような恐怖を覚えた。
後ろに誰かいる。
僕は、ゆっくりと振り向いた。

奥から二番目のトイレのドアは開かれ、そこに仮面の少女が立っていた。
突然、頭の中に直接、彼女の声が響いてきた。
「おまえとあいつと、どっちにしようか」
目はまっすぐに僕を見ている。
僕と、あいつ……?
細田さんのことだろうか。

「どっちにしようか」
また、声が響いた。
彼女は考えているようにも見えるし僕に聞いているようにも思える。
僕は、何かいった方がいいんだろうか?
1.彼を選べという
2.僕を選べという