学校であった怖い話
>六話目(細田友晴)
>K15

「もう帰りましょう」
僕がいうと、細田さんはホッとしたようにうなずいた。
「そうだね。そうだよね」
いそいそと戻ろうとする。
しかし。

目の前には、何もなかった。
廊下の床板は足元で切れていた。
僕たちの前には、宇宙空間のような暗闇が広がっていたのだ。
「こんな……げ、幻覚だよね?」
細田さんが一歩踏み出す。

でも、見えない床なんてなかった。
「うわあっ」
足を踏み外した細田さんを引っ張る。
勢いで、二人ともひっくり返ってしまった。
「そんな……本当に帰る道がないのかい?」

細田さんは泣き声だ。
でも、僕にはどうしようもない。
僕だって泣きたいくらいだ。
こうなったら、僕たちの進む道は一つだ。
僕は覚悟を決めて、口を開いた。

「行きましょう」
僕がそういうと、細田さんが僕の手を握っていた。
「……君は、勇気があるね。僕は、怖いよ。
自分で行こうなんていっておきながら、こんなことをいうのは何だけれど……。僕は、怖くてたまらないんだ」

「大丈夫ですよ」
とはいったものの、保証なんか何もない。
僕のいった言葉の、何と説得力のないことか。

「今まで、話をしてきた人たちが、みんないなくなってしまう。一つ話が終わるたびに、悪いことが起きる。
……今度は僕の番だろ? 僕がいなくなってしまうんだろ?」
細田さんの手は、じっとりと汗ばんでいた。

そして、顔中から汗が吹き出して、ぬらぬら光っていた。
「頼むよ。僕のことを見捨てないでおくれよ」
「わかってますよ」
僕が足を進めると、僕の手を握る細田さんの手に力が入るのがよくわかった。

僕たちは、女子トイレの前に立った。
「……入りますよ」
僕の言葉に、細田さんは小さく頷いた。

トイレの中には何もなかった。
しばらく使っていないせいか、何ともいえない饐えた臭いが辺りを包んでいる。
……奥から二番目のトイレ。
噂では、そこに花子さんがいるという。
でも、ほかも怪しい。

とりあえず、僕は奥から二番目のトイレの前に立った。
どうする?
ノックしてみるか?
1.ノックする
2.ノックしない