学校であった怖い話
>六話目(細田友晴)
>W7

本気かい?
授業が終わってからずうっとだよ。
お腹も空くだろうし、窓の外は暗くなるだろうし……。
なのに、六人のうち、誰一人気づかなかったなんてさ。
これはどう考えても異常だよ。

そうは思わないなんて、君の方が変なのか、よっぽどのへそ曲がりかどっちかだね。
そんなに僕の話をまぜっかえしたいなら、勝手にしなよ。
僕は話を続けさせてもらうよ。
……とにかく、みんなはおかしいと思い始めた。

その時点で、誰かが帰ろうといい出せばよかったんだ。
でも、誰も口に出さなかった。
変だなと思いながらも、薄暗い蛍光灯を頼りに補習を続けてたんだよ。

それにしても、補習のプリント如きで、そんなに時間がかかるもんなんだろうか。
そもそも、赤点を取るような連中のための補習だよ。
僕も何度も受けているからわかるんだけれど、成績の悪い僕だって、それほど難しいとは思わない。
そんなレベルだよ。
それとも昔は難しかったのかなあ。

時計が十時を回ったころだった。
さすがに一人が、しびれを切らしてね。
「なあ。俺たち、忘れられてんじゃないか?」
誰もが一番聞かれなくない質問だった。
そして、残りの五人は顔を見合わせたのさ。

「そんなことないよ。先生が僕たちを放っておくなんて、考えられないもん」
一人がついそんなふうに答えたんだ。
そういう自分にも自信はなかったけれど、自分たちが見捨てられているとは思いたくなかったから、そう答えてしまったのさ。

僕、その気持ちわかるなあ。
「だったら、どうしてこんな時間まで来ないんだよ。もう十時を回ってんだぜ」
そして、教室の壁にかかっている時計を指さした。

「そんなことより、みんなは補習終わったの?
終わったら、こっちから先生を呼びに行けばいいじゃない」
一人の女の子が、不安を打ち消すように強い口調でいったんだ。
「……それもそうだな」
そして、みんなはまた補習を続けたんだ。

それでも、補習は終わらない。
まるで、同じところを何度も何度もやらされているような錯覚に陥ってしまう問題ばかりだった。
そんなに難しくないはずなのに、なぜか終わらない。

解いても解いても、永遠に終わることのない問題集をやらされている気分だった。
時計を見ると、まだ十時二十分だった。
もっと時間がたっていてもいいはずなのに、あまり時間はたっていなかったんだ。

それからしばらくして……。
まだ時計は十時二十分を指していたんだ。
「……ねえ、あの時計、止まってるんじゃない?」
さっきと違うもう一人の女の子が心細そうに呟いたんだ。
それは、誰もが気づいている不安だった。

それがあの時計だよ。
ほら……。
あの壁にかかっている時計。
暗くて見えないかい?
あの時計は、今、何時を指していると思う?
十時二十分だよ。

あの時から、ずーっとあの時計の針は十時二十分を指しているんだ。
どうだい?
あの時計を調べてみるかい?
1.調べてみる
2.調べない