学校であった怖い話
>六話目(細田友晴)
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……そう、このドアだね。
彼は、ノブに手を回すと、ゆっくりとドアを開けていった。
鍵はかかっていなかった。
……中には、誰もいなかった。
いよいよ、最後のドアだ。
彼は、残ったドアのノブに手をかけた。
この中にいなければ、どうしよう……。

もしこの中が空っぽだったら、トイレの電気をつけたのは誰なんだろう?
そして、彼らはどこにいるんだろう?
すべて、つじつまが合わなくなってしまう。
それを思うと、彼の心臓は激しく震えたよ。
開けるべきか、開けないべきか。

彼は、悩んだよ。
それでも、開けなければ答えはでない。
彼は、震える手を落ち着けるためにもドアのノブを強く握りしめた。
そして、ゆっくりとドアのノブを回した。

……その時だった。
どこかで、悲鳴が聞こえたんだ。
彼は思わず、ドアのノブから手を放した。
そして声のするほうに走ったんだ。

悲鳴は長く続いていた。
男の声?
それとも、女の声?
一人ではなく、何人もが叫んでいるような不気味な叫び声。
「下からだっ!」
声は、下の階から聞こえていた。
彼は、飛ぶように階段を下りると、長い廊下を見渡した。

「あっ!」
彼は、見たんだよ。
廊下の遠くのほうを、職員室に行ったはずの三人が引きずられていくのを。
三人は、まだ生きていて、声を張り上げ助けを求めていた。

どうして、職員室に行ったはずの彼らが、こんなところにいるのかわからない。
途中で、何物かに襲われたのだろうか……。
彼らが、何かに引きずられているのは確かなんだけれど、その姿がよく見えないんだ。

何やら、黒くて小さな固まりのようなものがいくつもあって、それが三人を引きずっているようだった。
「待てっ!」
彼は、急いで後を追った。
けれど、勢い余って、滑って転んでしまったんだ。
そして、頭を強く打った。

「いてぇ……」
後頭部をさすって、ぎょっとした。
頭が、ぬるぬるしていた。
髪の毛が、べっとりと濡れているんだ。
血……?

彼は、ぬめった指を鼻先に持っていった。
それは確かに血の臭いだったよ。
もう一度頭をさすって、気づいたけれど、傷口はなかった。

それで薄暗い廊下を見てみると……。
廊下に、べったりと血がついているじゃないか。
それは、廊下をローラーが走ったように、太い一本の線となって続いていたんだ。
これは、三人が引きずられてついた血だ。
彼は、そう直観した。

立ち上がって遠くを見ると、引きずられていく三人は、ほとんど動いていなかった。
もう助けを呼ぶ声も聞こえてこなくなった。
死んでいるのか、それともまだ、かろうじて生きているのか……。
三人は、廊下を端まで引きずられていくと、そのまま角を曲がったのさ。

そして、そのまま見えなくなった。
あの曲がり角の先には、もう一つの階段がある。
彼は、急いで後を追った。
こんどは、血に足を取られないように気をつけながら。

角を曲がっても、三人が引きずられていった跡はくっきりとついていたんだ。
まるで、ナメクジが通った跡のようにね。
跡は、三階へ延びていた。
彼は、無我夢中で後を追った。

三階を上ったとき、もう彼らの姿は見えなくなっていた。
けれど、廊下には血の跡がついているからね。

彼は、その跡を追っていったんだ。
血の跡は、どこに続いていたと思う?
三階の女子トイレに続いていたのさ。
しかも、女子トイレには、電気がついていた。
彼は息をのんだ。
逃げようと思えば、逃げられたはずだ。

けれど、逃げなかったんだよ。
テレビのヒーローにでもなったつもりだったんだろうか。
彼は、その血の跡をゆっくりと追い、女子トイレの前に立ったのさ。
トイレはひっそりと静まり返っていた。

彼は、もうあの二人が仕組んだいたずらだという考えはきっぱりと捨てていた。
あの時、開けなかった最後のドアの中に、やっぱり彼らが潜んでいてそれで今……。
それがどんなに馬鹿らしい考えなのかは、彼自身もよくわかっていたからね。

トイレの中まで、血の跡は続いていたよ。
トイレの中は、蛍光灯が、こうこうと輝いていたからね。
妙に眩しかったよ。
その床に、べったりと血の跡がついているのさ。
三本の線が、一緒になって太い一本の線になっていた。

太い線の所々に細い隙間があるのは、それが三本の線が集まったものだという証拠さ。
その線は、はっきりと続いていたんだよ。
あの花子さんがいるという、奥から二番目の個室にね。

音は全くしなかった。
それに、旧校舎にあるトイレの個室は狭いからさ。
どう考えても、あの空間に三人が入っているとは思えない。
でも、血の跡を見る限りでは、そこにいるとしか思えない。

ねえ、坂上君。
彼はどうしたと思う?
花子さんがいるという個室のドアを開けたと思うかい?
1.開けた
2.開けなかった