学校であった怖い話
>六話目(岩下明美)
>M4

そう……。
世の中、いいことばかりじゃないわよね。
それも、運命なのかしら。
だったら、幸せをつかもうとする行為は、無意識に運命に逆らおうとすることなのかもしれないわね。
うふふ……。
私がこれから話すのは、運命にまつわる話よ。

もし運命を変えようとしても、簡単には変えられないわ。
努力とか、勉強とか、自己コントロールとか、苦労しなければだめね。
それでも、運命というものが存在するならば、簡単に変わるとは思えない。

……でもね、簡単な方法があるのよ。
少なくとも、本人が満足できる方法がね。
何だかわかるかしら?
それは、物に頼ること。
最近、よくあるでしょ。

パワーストーンとか、タキオンとか、ピラミッドパワーとか。
そういった超現実の力を持った類の物。
そういうものに頼ることで、運命を変えて、明るい未来を切り開こうとする。

努力もしない完全な他力本願が、どういう結果になるか……。
そんなこと、頭のいい人間ならば、わかっているでしょうに。

坂上君、あなたの周りにはいないかしら?
そういう未知の力に取りつかれてしまった人。
私のクラスには一人いるわ。
そういう魔力に魅せられてしまった、かわいそうな人が。

彼女の名前は、大川百合子というの。
大川さんは、特にパワーストーンに興味を持っていたの。
パワーストーンとは、不思議な力を秘めた石のことで、わかりやすくいえば水晶のことよ。

いろいろな種類の石があって、それぞれに違う効果があるの。
目がよくなったり、病気が治ったり、気持ちを落ち着けたり、お金がたまったり、そういうことが、その石を持っているだけで起きるのよ。

夢みたいな話でしょ?
もちろん、そんなものは非現実的だという人もいるわ。
でも、信じたい人が信じていれば、それは自由よね。
でも、信じたい人が信じていれば、それは自由よね。
パワーストーンをもっていることでその人がその気になるのであれば、それだけで十分に価値はあるんじゃないかしら。

パワーストーンの有名なものでは、ラピスラズリという石があるわ。
それをもっていると、幸せになれるんですって。
なくしたものが見つかったり、かなわないと思っていた恋が実ったり。
不運を逆転させる力も秘めているのよ。

別にラピスラズリを持っていようがいまいが関係のないような些細なことかもしれないわ。
でも、そう思うのは人の自由。
女の子の間では、ちょっとしたブームになったこともあるのよ。
でもね、マニアの間では、ラピスラズリ以上の効果を呼ぶ幸運のパワーストーンが噂になっているの。

その名はルーベライズ。
このルーベライズという石は、こはく色の美しい石なんだけど、とても珍しい物らしいわ。
日本ではまず手に入れることは不可能だし、一般人が簡単に買えるような値段じゃないの。

それでも、ルーベライズの効果は絶大らしいわ。
持ち主の願い事は、どんな願い事でもかなえてくれるんですって。

でも、変な話よね。
そんな高価なルーベライズを手に入れられるくらいなら、たいていの願い事なんてかなうと思うの。
それでも、ルーベライズがほしいなんて、馬鹿よね。
金持ちの考えること、私にはわからないから。

それで、大川さんもルーベライズのことは、もちろん知っていたわ。
ラピスラズリは持っていたけれど、それだけではもう我慢できなかった。
それが人間の欲というものね。

ルーベライズの存在を知ってからは、もうラピスラズリの効果など信じられなかった。
でも、ルーベライズはどんなに自分が頑張っても一生手に入れられるような値段じゃない。
それこそ、幸せの石を手に入れるために、幸せを犠牲にしなければならないわ。

けれど、もともと他力本願に頼るような人でしょう?
そういう人ってわがままだから。
ほしいものが手に入らないと、余計ほしくなるものよ。
それで、毎日神様にお祈りしたらしいの。
「神様。ぜひとも私にルーベライズをお与えください。どんなことでもいたします」

……馬鹿ね。
そんなことをしている時間があるなら、その分努力すればいいのに。
でも、不思議なものね。
神様は、本当にいるのかもしれない。
その願いは聞き入れてもらえたのよ。
もっとも、それは真実味の薄い噂から始まったんだけれど。

彼女は、ふとクラスメートの話を立ち聞きしてしまったの。
「ねえねえ、ルーベライズって知ってる?」
「何それ?」
大川さんは、すぐにでもその話に参加したかったわ。
でも、素知らぬ顔で耳だけ会話に傾けていたの。

「すごく高いパワーストーンなんだけれど、効果は抜群なのよ」
「いいなあ。それほしい」
「馬鹿ね。そんなに簡単に買えないんだから。
……でもね、昔うちの学校の先輩が持っていたらしいよ」
「へえ……すごいね」

大川さんは、びっくりして会話に聞き入ったわ。
まさか、この学校にルーベライズを持っている人がいたなんて……。
大川さんは、羨ましいやら悔しいやらで、胸が張りさけそうだった。

「……でもね、その人死んじゃったのよ」
「えーっ! じゃあ、その石の効力もあてになんないじゃーん。死んじゃうんだったら、にせ物だよ、きっと」

「そんなことないと思うよ。だって、事故にあって死んじゃったんだもん。それまではすごい、幸せだったんだってさ」
「本当かなあ?」
「本当だって。それでね、その人のお墓に、一緒に埋めたんだって。そのルーベライズを」
「もったいなーい」

大川さんは、もう我慢できなかった。急いでその会話に加わったわ。
「ねえ! その先輩って、なんて名前なの?」
「……確か、岡崎……岡崎……えーと、下まではわからないけど、確か岡崎さんだったと思うよ」

大川さんには、それだけわかれば十分だったわ。
あとは、調べればなんとかなる。
この学校に在籍していた生徒で、若くして死んだ岡崎さんを捜せばいいんですもの。

歴代の卒業アルバムを調べると、すぐに岡崎さんは見つかったわ。
フルネームは岡崎幸枝。
自分より二十五年ほど前の先輩だった。
そんな昔から、彼女はルーベライズのことを知っていて、しかも持っていたということが、とても憎らしく思えたの。

そのころは、まだパワーストーンなんて、一般人の間では話題にも上らなかったからね。
わがままな人って、そういうものだわね。

当然、大川さんが何を考えたかはわかるわよね?
1.岡崎さんの親に頼んで譲ってもらう
2.岡崎さんの墓を掘り起こして盗む
3.わからない