学校であった怖い話
>六話目(福沢玲子)
>Q7
近藤先生は、何もなかったことにしようとしたわ。
それで、周りの先生に言い訳だけして、そそくさと職員室から抜けだしたの。
そうしたら……。
後ろから、不意に肩をたたかれてね。
振り向くと、平井さんがいたの。
彼女は逃げたふりをして、廊下で近藤先生を待っていたのよ。
「ひ、平井。お前、帰ったんじゃなかったのか?」
平井さんは、おろおろする先生の腕をひっぱったわ。
「近藤先生、ちょっと話があるの……」
平井さんは、うつむいたまま歩き始めた。
「ひ、平井。どこに行くんだ?」
「二人きりで話せる所に行くの……」
平井さんは、何を考えたのか体育館に先生を連れていったわ。
そうして、先生に背を向け、黙りこんだの。
人気のない体育館は空気が冷たくて、死んでいるようだった。
「平井。勘違いしないでくれ。僕は、君のためを思って……!」
近藤先生は、平井さんの腕をつかむと、無理やり振り向かせたの。
平井さんの顔は、無表情で氷のように冷たかったの。
「……先生、うそついた」
「うそをついたんじゃないんだ!
僕は教師なんだよ! 君とつきあえるわけ、ないじゃないか!」
近藤先生は、うわずった声で必死に弁解したの。
でも、どんな理屈をこじつけようが平井さんには通じなかった。
近藤先生はあせったわ。けどね、あせればあせるほど、屁理屈に聞こえたし、説得力はなくなっていったわ。
平井さんにとっては、そんな言葉どうでもいいことだもんね。
ようは、近藤先生と結婚できればいいんだもん。
「……先生と私はね、赤い糸で結ばれているの。だからね、逃げることはできないのよ。
運命なんだもん」
「……平井! わかってくれ!
これ以上、先生を困らせないでくれ!
そんな赤い糸なんて、見えもしないものを信じちゃだめだ!」
「先生、困らないで。赤い糸はちゃんとあるんだから」
そういうと、平井さんは突然ナイフを取りだしたの。
「……な、何をするんだ?」
近藤先生は、驚いたわ。
思い詰めた少女は何をするかわからない。
自分が殺されてもおかしくない。
そう思うと、自然と逃げ腰になるのが自分でもよくわかったの。
でもね、平井さんが近藤先生を襲うわけないよね。
だって、愛する運命の人なんだもん。
平井さんは、取り出したナイフを、自分の右手の小指の根元に突き刺したの。
根元にナイフを突き立てると、それでグリグリとほじくったの。
それも、何も感じていないような無表情でね。
驚いたのは、近藤先生よ。
「……な、何をするんだ、平井?」
「……今ね、証拠を見せてあげるから。安心して、未来の旦那様」
平井さんは、無表情の目のまま口だけで笑うと、ナイフを捨てたわ。
そして、今傷つけたところを無理やり押し広げると、中から神経を引きずりだしたの。
「あ……あ…ああ…………あああ……」
血で真っ赤に染まった神経が、ずるずると小指から引き出されるたびに、平井さんは悦に入った表情を浮かべ、体をがくがくと震わせたの。
「……ほら、赤い糸」
そして、それを嬉しそうに近藤先生に見せたのよ。
小指からは、赤い血がぽたぽたと滴っていたわ。
そして、その血が、引き出された神経をつたって、つーって流れていたの。
近藤先生は、何をいっていいかわからず、ただ金魚みたいに口をぱくぱく開けるだけだった。
近藤先生、どうしたと思う?
1.逃げた
2.落としたナイフで戦った
3.思わず平井さんを抱きしめた