学校であった怖い話
>七話目(荒井昭二)
>A5

いいや、このまままっすぐ行ってしまえ。
あの人影も気のせいさ。
僕と福沢さんはそのまままっすぐ歩く。
すると、その人影はふっと曲がり角に姿を消した。

姿を消したんじゃない、あれは幻影なんだ。
よかった……やっぱり僕の気のせいだ。
そして、最後の曲がり角を曲がる。
「!?」
その曲がり角の端には、さっきの人影が張りついていた。
そして、福沢さんを挟むようにして僕を見ている。

それは、非常灯の緑の明かりにほんのり照らされていた。
僕は、視界の中にそいつが入らないように早足で歩く。
「坂上君て歩くの速いんだね」
福沢さんがいう。
僕は、その問いかけには答えず足を進めた。

そいつは、じっと僕の後ろ姿を見つめているらしい。
どうやら、僕の後にはついてこないようだ。
こんな時刻なので、さすがに生徒用の入り口は閉じられている。
したがって、通用門を通ることになるわけだ。
廊下の奥に、非常灯のついた通用口が見える。

「やっと出口だ……」
僕は、ホッとして呟いた。
福沢さんはそんな僕を見て笑っている。
……ちょっと待てよ、あの音は?
確かになにかが聞こえる。
僕は、後ろを振り返った。
福沢さんも、僕が振り返ったのと同時に後ろを向いた。

窓の外から、街灯の明かりが淡く差し込んでいる。
とぎれとぎれになにかが見えた。
人影!?
……向こうから人影がこちらに向かってやってくる。

「……坂上君。坂上君!」
福沢さんの声で、僕は、はっと我に返った。
福沢さんが、僕の肩を揺すっている。
「どうしたの?
汗びっしょりだよ」

そして、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
見ると、そいつはもういなかった。
僕のシャツは、水に浸したようにぐっしょりと濡れていた。
息が、とても荒かった。
「ねえ、大丈夫?
少し、座ったら?」

改めて、福沢さんは声をかけてくれた。
「もう、大丈夫だから。
さあ、行こう」
言葉ではそういったものの、あの得体の知れない人影が、僕の脳裏に焼きついて離れなかった。
……果たして、福沢さんは、あれを見たのだろうか?

どうしよう。
聞いてみようか?
いや、聞かないほうがいいんじゃないか?
1.尋ねてみる
2.黙っている