学校であった怖い話
>七話目(荒井昭二)
>AF6

「やめてくれっ!」
僕は、気がつくと自分でも驚くほどの大声で叫んでいた。
福沢さんは、びっくりした様子で慌てて僕の手を離した。
呆気にとられ、怖いものでも見るような目で僕を見ている。

「ごめん……。つい、大声を出しちゃって」
「……いいの。でも、びっくりしちゃった。
坂上君が、ここまで怖がりだなんて思わなかったから。
ごめんね、無理いっちゃってさ。
わかったから、違う道を行こうよ」

福沢さんは、年上気取りで、僕の肩をポンポンとたたいた。
何だか、とても気恥しい。
確かに僕は怖がりだけれど、同い年の女の子に同情されると、妙に言い訳したくなってしまう。

それでも、このままこの廊下を突き進む勇気は、やはり持ち合わせていない。
この場は逆らわず、福沢さんの好意を受けることにした。
僕は、引き返し、別の道から帰ることにした。
急がば回れ。
それが一番いい。

……が。
僕は、また足を止めた。
この先にも、何かいる。
僕は、得体の知れない人影に挟まれてしまった。
しかも、今度のそいつは僕のほうにゆっくりと近づいてくるじゃないか。

そいつは、跳びはねるように体をくねらせ、ギクシャクしながら近づいてくる。
まるで、操り人形のように……。
人形?
僕は息を飲んだ。
見ようによっちゃあ、確かにそいつは人形だ。
まさか、荒井さんの話していたあの人形じゃあ……。

「……坂上君。坂上君!」
福沢さんの声で、僕は、はっと我に返った。
福沢さんが、僕の肩を揺すっている。
「どうしたの?
汗びっしょりだよ」

そして、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
見ると、そいつはもういなかった。
僕のシャツは、水に浸したようにぐっしょりと濡れていた。
息が、とても荒かった。
「ねえ、大丈夫?
少し、座ったら?」

改めて、福沢さんは声をかけてくれた。
「もう、大丈夫だから。
さあ、行こう」
言葉ではそういったものの、あの得体の知れない人影が、僕の脳裏に焼きついて離れなかった。
……果たして、福沢さんは、あれを見たのだろうか?

どうしよう。
聞いてみようか?
いや、聞かないほうがいいんじゃないか?
1.尋ねてみる
2.黙っている