学校であった怖い話
>七話目(細田友晴)
>M6

おいおい。
ここで死んだのは、生徒たちだってこと、いわなかったか?
いくら何でも、まったく関係ない兵隊の幽霊なんか出るわけないだろう。
先生が聞いた話では、壁に耳を当てると、苦しそうな声が聞こえるっていうんだよ。

当時は先生も、そういうものに興味を持っていてな。
噂を聞いて、仲がいい友達と肝試しに行ったんだ。

ちょうど夕暮れ時だったっけ。
薄暗い廊下の隅で、ここの壁だけがボウッと白く浮いて見えた。
なんとなく嫌な感じがしたけれど、ここまで来たら後に引けない。
先生たちは、壁に耳を押し当てたよ。

……初めは、よくわからなかった。
耳をふさぐと、ブーンと、音にならない音がするだろう。
ちょうど、あんな感じだったよ。
でも、それに混じって、何か聞こえるんだ。
声……?
誰かが、遠くでささやいているような。

もっとよく聞こうと思って、しびれるくらい耳をくっつけた。
聴覚に集中するために、目も閉じた。
すると、声が大きくなったんだ。
今度はまるで、近くでささやかれているみたいだったよ。
それが日本語だってこともわかった。

「どうして……どうして……」
その一言を、ずっと繰り返しているんだ。
防空壕に入れてもらえずに、死んだ人たちの声なんだろうか?
それとも、防空壕から逃げ出せずに蒸し焼きになった人たちだろうか?
冷水を浴びせかけられた気分だったよ。

たまらなくなって、先生は目を開けた。
その鼻先に、顔があったんだ!
壁から浮き出た、苦しげな顔がな。
まるで、誰かが出て来ようとしているみたいだった。
それが、耳を押し当てている、ほんの十センチほど先にあるのさ。
心臓が止まるかと思った。

急いで飛びのきたいのに、足が動かない。
大声を上げようとしたその時。
壁の顔の、今まで閉じていた目がカッと開いたんだ。
先生は悲鳴をあげたよ。
そして、しりもちをついた。

不思議なもので、それがきっかけで体が動くようになった。
先生はあわてて立ち上がり、一目散に逃げ出したよ。
後ろで、友達が何か叫んでいた。
でも、振り返りもしなかったな。
とにかく、怖くて怖くて、そこから逃げたいとしか思わなかったんだ。

次の日から、クラス中で臆病者といわれたけどな。
いっしょに行った友達は、顔なんて見なかったっていうのさ。
先生が、幻覚でも見たんだろうってな。
でも、あれは幻覚じゃなかった。
今でも、はっきりといい切れるよ。

それからだった。
あそこを通るのが怖くてね。
できるだけ、通らないようにしたものさ。

廊下の向こう側へ行くのにも、わざわざ階段を上っていったん二階に行って、それから廊下を渡ったものさ。
それでも、今ちょうど真下にあの壁があるんだろうな、なんて想像をすると自然と身体が震えてきてしまってね。
自分が怖がりでないと思っていただけに、ちょっとショックだったよ。

……けれど、ある日どうしてもあの壁の前を通らなければならなくなったんだ。
どうしてだと思う?
1.先生に頼まれごとをした
2.友達と賭けをした
3.非難訓練だった


◆一話目で岩下が消えている場合
2.友達と賭けをした
3.非難訓練だった


◆二話目〜五話目で何人かが消えている場合
2.友達と賭けをした
3.非難訓練だった