学校であった怖い話
>七話目(細田友晴)
>AQ6

そうなんだ。
でも、考えてみてくれ。
何か変じゃないか?
自殺したのは少年のはずなのに、どうして兵隊の幽霊が出て来るんだろう。
そりゃあ、ここに運び込まれた犠牲者の中には、兵隊だっていただろう。

でも、あまりにもチグハグじゃないか。
それだけでも、かなり嘘っぽい話だよな。
だけど先生は、逆に怪しいと思ったのさ。
作り話だったら、適当につじつまを合わせればいい。
中途半端な話になっているのは、どこかに真実が含まれているから

じゃないかってな。

それで、調べることにしたんだ。
まず、本当に幽霊が出るか、確かめることにした。
物陰に隠れてな。
こっそりこの壁をうかがっていた。
そうしたら、出たんだよ。

軍服姿の男が、ボウッと浮かび上がった。
先生は悲鳴をあげてしまってな。
男が振り返った。
その時のヤツの顔は、今でも覚えているよ。
そりゃあ、恐ろしかった。
こんな顔をしていたよ……。

……いや、こんなものじゃすまなかったな。
実際には、もっと怖かった。
何といっても、相手は人間じゃなかったんだから。
男はものすごい目で先生を見た。
強烈な威圧感だったよ。
にらみ殺されるかと思った。

動けないでいる先生に、ヤツはいった。
「我の姿を見たもの……殺す……」
とな。
先生は、真っ青になった。
ほんの少しの好奇心が、こんな事態を引き起こすなんて……。
その時、暗闇の中で、何かがうごめいた。
「うわあっ!?」

情けない声を上げて、細田さんが僕にしがみついてきた。
しかし、黒木先生は笑い出した。
「驚いたか。先生の友達だよ」
懐中電灯の明かりが、その人影を照らした。
地味なスーツ姿の男の人だ。

ペコリと頭を下げると、かけていた眼鏡が光を反射した。
「なんだあ。びっくりしましたよ」
細田さんが、恨めしげな声をあげる。
でも僕は、話の続きが気になっていた。
「先生、でも先生は、殺されなかったんですよね? こうして、僕たちと話をしているんだから」

先生はうなずいた。
「そうだ。
でもまあ、順番に話そうか」
先生はヤツを見て、その正体にピンときたんだ。
こいつは幽霊じゃない。
もちろん人間でもない。
死神だ……ってな。

それなら、たくさんの人が死んだ場所にいても、不思議じゃない。
でもそれなら、先生を殺すというのも本当なんだろうか?
震えだした先生に、ヤツは奇妙な笑みを浮かべたよ。
そして、再び口を開いたんだ。
「一度だけチャンスをやろう……X年後、我に、おまえの代わりの魂をよこせ。もし、できなくば……」

死神は口をつぐんだけれど、先生にはわかった。
もし持ってこなければ、改めて魂を奪う……
そういうことなんだろう。
だから、必死に答えた。
「わかった。必ず持ってくる」

……しょうがないだろう。
まだ高校生だったんだ。
やりたいことは、たくさんあった。
死ぬには早すぎるよ。
そして先生は、死神と契約をしたんだ。

そこまでいって、先生は友達だという男の人を見た。
意味ありげな笑みをかわす。
なんだか、嫌な感じだ。
「あの……先生、それで……」
「X年後というのは今年なんだよ」
先生は、嬉しそうに笑っている。

そして男の人にいった。
「約束通り魂を持ってきましたよ。
これで助けてください」
男は顔色も変えず、黙ってうなずいた。
僕たちは、キョトンと二人を見比べた。
「もう、軍服は着ていないんですね」
何気ないその一言が、僕を凍りつかせた。

この人が死神なのか!?
今年が、死神との契約の年ということは。
「先生! 僕たちの魂を、そいつにやるっていうことですか!?」
僕より先に、細田さんが叫んだ。

「そうさ。まだまだ、俺にはやりたいことがあるんでな」
黒木先生は、ずるそうに笑っている。
「そんな!!」
「うるさい! さあ、どうぞ」
先生にうながされ、男が近づいてきた。

「う……うわああっ!」
細田さんが、どこから出したのか、カッターナイフをかざした。
男に飛びかかる。
しかし、指一本触れないうちに、細田さんは吹っ飛ばされた。
巨体が壁にぶつかる。
ナイフが跳ねて、僕の足元に落ちた。

男は、細田さんに手を伸ばす。
どうしよう?
1.様子を見る
2.カッターを拾う