学校であった怖い話
>七話目(岩下明美)
>A4

そう、お前のいうとおりだ。
倉庫の中は、卵の腐ったような臭いでいっぱいだった。

お前たちは……、まあ俺もそうだけどさ。
自分で自炊なんかしていないだろ?
高校生で一人暮らしをしているやつなんて、めったにいないしな。
卵が腐ると、どんな臭いがするのかなんて知らないだろ。
俺の兄貴は、隣町で一人で自炊しているんだ。

男やもめにウジが湧く……、じゃないけどさ、きったねえんだよ。
冷蔵庫なんか開けようものなら、何年前の製造かわからないハムとか、チーズとかがたくさん入っているんだよ。
見かねた俺は、片づけを手伝ったんだけどな。

手が滑っちまったらしくて、その冷蔵庫の中に入っていた卵を落としたんだ。
もう、パニック状態だね。
俺と兄貴は部屋の戸を全部開けて、息を止めながら卵の始末をしたんだ。

大げさだと思うだろ。
マジで、すげえ臭いなんだぜ。
そんな体験をしていたから、俺は一瞬迷ったよ。
このまま倉庫に入ってもいいものかどうか?

でも、やっと苦労してここまでくることができたんだからあとには引けない。
そう思った俺は、必死に我慢した。
だけど、嗅覚が麻痺するんだ。
もう、嗅覚だけでなくその臭いのせいであらゆる感覚がぶっとんだよ。
鼻が曲がるって、きっとこういうことをいうんだね。

ふらふらになって、視界がぼやけて意識がもうろうとし始めた。
こりゃ、中に長い間いると危ないなと思いながら、電気のスイッチを捜した。

その時だった。
どこからか赤ん坊の泣くような声が聞こえてきたんだよ。
その声は、倉庫の奥のほうから聞こえてくるようだった。
赤ん坊の声と一緒に、水がチャプチャプ揺れるような音も聞こえてきた。

俺はびっくりしたよ。
そして、何事かと思ったよ。
部屋はかなり奥行がありそうだが真っ暗で何も見えない。
いろいろなものがゴチャゴチャあるみたいだったが、わけのわからないものばかりだ。

へたに歩くと、危ないからな。
電気さえつけばはっきりとわかる。
何とか電源を捜そうと必死になった。
その時だ。
俺の後ろで、何かが倒れる音がした。
見ると、岩山が倒れて、つらそうに息を吐いているじゃないか。
「おい、岩山」

「……日野。俺、気持ち悪い。この部屋、臭いぜ。もう、だめ……」
岩山の野郎、あまりにも臭いんでダウン寸前らしい。
薬品の臭いとは違った、麻痺する感覚はなんともいえない。
俺も、こみ上げてくる酸っぱいものをなんとか飲み込んで頑張った。

そのあと、俺はどうしたと思う?
1.岩山を放って、電源を捜した
2.岩山を担いで、部屋を出た