学校であった怖い話
>七話目(岩下明美)
>H8

俺は、岩山が普通じゃないとすぐに悟ったよ。
岩山はあのとき、あの得体のしれない物体のせいで、おかしくなっているんだってことをね。
ここは、戦うしかないと思った。
あいつを置き去りにした負い目はあるが、ここでやられるわけにはいかない。

俺は、岩山の肩を逆にがっしりとつかんだ。
そして、お互いゆずらない。
岩山は俺の顔に口を近づけていった。
「俺は、あれから白井に助けられた。ふっ、ばかいうなよ。あいつが俺をただ助けてくれると思うか?

交換条件さ。俺の体をいじらせてくれることとな。俺はあれから一週間、白井の思うままにこの体をいじられたわけだ。
あの時お前が、俺のことを見捨てなければこんなにならずにすんだと恨んだよ。だけど今は最高な気分だね。お前に感謝している。

お礼に、お前も俺と同じ目にあわせてやるぜ」
岩山が俺の顔を舐める!
「はっ!」

俺は、気づくと自分の布団に寝ていた。
……俺は夢を見ていたんだ。
そうか……、あれから岩山はまだ、学校にもきていなかったんだっけ……。

あれから、岩山の消息はわからないままだ。
と、まあこんな話もあるということさ。
……僕は、気になって日野さんに聞いてみた。

「あの……、岩山さんのことは警察の人に話したんですか?」
……いや、話してはいない。
思い出したくもないからね。
俺は、あの倉庫のことはできるだけ記憶から消そうとした。
いや、今もしているんだよ……。
でも、忘れられない。
あたりまえだ、忘れられるわけがないんだよ。

僕は、一瞬日野さんがぼやけて見えた。
水の波紋のように、日野さんの顔が揺れて見える。
日野さんは、いやらしい笑いを顔に浮かべていた。
これから、僕たちになにかをしようとしているのが本能でわかった。

このままじっとしていたら、なにをされるかわからない。
……しかし。
もう今は、なにも考えたくない、なにも行動したくないという気持ちに支配されている。

「君たち、いい感じに薬が効いているようだね。ふふふ、あの飲み物には薬が入れてあったのさ。お前たちは、俺たちと同化するんだ。俺たちの仲間になれば、それぞれの優秀な才能を最大限に発揮することができる。

どんどん俺たちは同化していけば、最終的には誰にも劣ることのない一つの生命体になれるんだ。すごいだろう。君たちは喜ぶべきなんだ。そして、この研究を成功させた白井先生にも感謝すべきだ」

その時、ぼんやり揺れている日野さんは手のひらを僕らに向けた。
手のひらには一つの顔があった。
その顔は、口をもごもごと動かしていった。
「初めまして、俺は岩山だ。これからみんなと一心同体になるわけ。
仲良くしよう。よろしく」

僕は、言葉もなくそれを見ているだけだった。
よく見ると日野さんの皮膚には、取り込まれた人たちであろう顔がびっしりとうごめいていた。
彼の、のど仏、ほおや首、額など……、たぶんこのぶんだと体中がそうだろう。

その顔は、思い思いになにかをぐちゃぐちゃ僕に言っているようだ。
すると、だんだん日野さんの皮膚は薄桃色の半透明に変化してきた。
柔らかそうに、左右に揺れながら。
その時、目の前がふっと薄桃色の幕をかけたように見えた。

どうする!?
無気力のまま最期を迎えるのか!?
1.迎えよう
2.最後の抵抗をこころみよう