学校であった怖い話
>四話目(新堂誠)
>C6

俺は彼女に嫌われてしまったんだ。
もともとは、彼女に恋人ができたのが原因なんだけどよ。
それがヒョロヒョロしたかっこ悪い男でさ。
スポーツマンだとか、俳優みたいなルックスだとかなら納得もするけど、あいつは全然、彼女にふさわしくなかった。

……俺は彼女にあこがれてたんだよな。
だからおもしろくなくてさ。
彼女と歩いてるところに飛び出していって、ブン殴っちゃったんだ。
ほっぺたを思いっきりだったから、こっちの拳にも相当のショックが来ると思った。

でも……来なかったんだ。
まるで骨がないみたいだったぜ。
ぐにゃりと、手首まで拳が埋まって……ゴムボールみたいな感触だった。
しかも、あいつは痛くもかゆくもないって顔で、へらへら笑ってるんだ。

ビックリして棒立ちの俺に、彼女が食ってかかってきたよ。
でも何もいい返せなかった。
それどころじゃなくってさ。
それからというもの、彼女は俺を無視し始めたんだ。
俺は彼女と話して、あいつは人間じゃないって教えようとしたんだけどな。

それからしばらくして、ある休みの日のことだったっけ。
清水さんの家から、ものすごいわめき声が聞こえたんだ。
何かと思って窓から覗いたら、清水さんの家から例の男が飛び出してくるじゃないか。

そしてその後から、清水さんがワーワー泣きながら出てきたんだ。
髪を振り乱し、顔中で泣くってのは、ああいう顔のことをいうんだろうな。
そして、手にした本や絵の具なんかを、奴に投げつけてたのさ。
そいつは、へらへら笑っていた。
清水さんのことを馬鹿にしたように、へらへら笑っていたのさ。

「殺してやる! お前なんか、殺してやる!」
彼女は、そう叫ぶと、そいつに飛びかかったんだ。
俺の家まで聞こえたくらいだからな。
正直、近くの家の連中は、みんな窓から首を伸ばしてたぜ。
そいつは、ひょいっと彼女のことをよけると、何やら呟いていた。

声は聞こえなかったけれど、俺には何だか彼女をののしっているように思えたな。
「私にだってやれるんだ! お前なんか、殺してやる!」
あんな恐ろしい彼女の姿は初めてみたな。
本当に、今にも殺しそうな勢いだった。

それでもそいつは、せせら笑うと、またふらふらと歩き始めた。

彼女はその場に泣き崩れてしまった。
そして、それ以来あいつの姿を見ることは二度となかった。
それから一ヵ月ほどたって、彼女は殺されたのさ。
誰かに首を絞められてな。
実際、彼女が殺されたとき、警察は、俺の家にも近所にも調査にやってきた。

俺は黙っていたけど、誰かはしゃべったんじゃないか?
あいつのことをさ。
それほど、派手なケンカだったからな。
誰もが覚えていても不思議じゃない。
そして、話していてもな。
けれど、あいつが見つかるわけはない。

あいつは人間じゃないんだからな。
俺は、思ってる。
あいつは、存在しない人間なんじゃないかって。
だから、もし清水さんを殺した犯人があいつだったら、どんなに捜しても見つかるわけはないのさ。
迷宮入りになって当然の事件だよな。

……どうだ、坂上?
これから、もう一度、美術室に行ってみないか?
1.行く
2.行かない