学校であった怖い話
>四話目(新堂誠)
>H7

そうだよな。
興味あるよな。
なんせ、お前の命がかかってんだもんな。
俺はな、とりあえず、男が何者かを調べてみることにしたのさ。
休みの日に、俺は家の窓に身を隠しながら、一日中、彼女の家を見張っていた。

朝早くやってきたあいつは、いつになったら帰るんだろうと、腹が立ってくるほど、なかなか家から出てこなかった。
俺も眠くなっちまってね。
なんせ、まだ中学生だ。
ぼーっとした頭で、うとうとした目をこすりながら時計を見たときには、もう真夜中の十二時を過ぎていたんだ。

いくらなんでも、遅すぎる。
いくらなんでも、よくも親が許すもんだと思っていたら、やっとのことで出てきたのさ。
そして、俺はすぐにその男の後をつけた。

昼間は気づかなかったんだが、そいつの夜歩く姿を見てると、何だか夢遊病者みたいな奴でな。
ふ〜らふ〜ら、ふ〜らふ〜ら、宙に浮かぶようにして歩いてんだ。
気味悪かったぜ。
誰かに操られているようにも見えたな。
これだけ遅くまでいたわけだから、家は近いに違いない。

まさか、電車に乗っていくようなことはないだろうと、俺は少しだけ安心した。
そして、俺は確かにうまく尾行した。
あいつを一度も見逃すようなことはなかった。
けど、あいつは突然いなくなっちまったのさ。

俺の家から程近い角を右に曲がった途端、急に奴の姿はなくなったんだ。
本当に、煙みたいにな。
俺は、びっくりしたさ。
そして、言い知れぬ恐怖が込み上げてきた。
そいつが消えてはならないんだ。
近くの家に入ったなんてことは絶対にありえない。

奴が曲がった角の先は、両側とも高い壁が、ずーっと続いていたんだからな。
……こんなことってありえるか?
あいつは、絶対に人間じゃない。
清水さんは、人間でない何者かと付き合っていたのさ。

俺は、それ以来そいつの後をつけるのはやめた。
恐ろしかったからな。
……しかし、それから間もなくのことだった。
清水さんとあいつがケンカを始めたんだ。

俺は、あれからも彼女の家を見張るのだけはやめなかった。
休みになると、窓から彼女の家を覗いていたのさ。
その日はまだ夕方前だった。
それなのに、あいつが飛び出してくるじゃないか。

そしてその後から、清水さんがワーワー泣きながら出てきたんだ。
髪を振り乱し、顔中で泣くってのは、ああいう顔のことをいうんだろうな。
そして、手にした本や絵の具なんかを、奴に投げつけてたのさ。
そいつは、へらへら笑っていた。
清水さんのことを馬鹿にしたように、へらへら笑っていたのさ。

「殺してやる! お前なんか、殺してやる!」
彼女は、そう叫ぶと、そいつに飛びかかったんだ。
俺の家まで聞こえたくらいだからな。
正直、近くの家の連中は、みんな窓から首を伸ばしてたぜ。
そいつは、ひょいっと彼女のことをよけると、何やら呟いていた。

声は聞こえなかったけれど、俺には何だか彼女をののしっているように思えたな。
「私にだってやれるんだ! お前なんか、殺してやる!」
あんな恐ろしい彼女の姿は初めてみたな。
本当に、今にも殺しそうな勢いだった。

それでもそいつは、せせら笑うと、またふらふらと歩き始めた。

彼女はその場に泣き崩れてしまった。
そして、それ以来あいつの姿を見ることは二度となかった。
それから一ヵ月ほどたって、彼女は殺されたのさ。
誰かに首を絞められてな。
実際、彼女が殺されたとき、警察は、俺の家にも近所にも調査にやってきた。

俺は黙っていたけど、誰かはしゃべったんじゃないか?
あいつのことをさ。
それほど、派手なケンカだったからな。
誰もが覚えていても不思議じゃない。
そして、話していてもな。
けれど、あいつが見つかるわけはない。

あいつは人間じゃないんだからな。
俺は、思ってる。
あいつは、存在しない人間なんじゃないかって。
だから、もし清水さんを殺した犯人があいつだったら、どんなに捜しても見つかるわけはないのさ。
迷宮入りになって当然の事件だよな。

……どうだ、坂上?
これから、もう一度、美術室に行ってみないか?
1.行く
2.行かない