学校であった怖い話
>五話目(荒井昭二)
>D6

「はい」
僕は、すぐにそう答えた。
ここは、荒井さんを信用するしかない。
ほかの人たちも同意の答えを出した。
ただ、風間さんの声だけは聞こえなかったけれど。
荒井さんは、話を続けた。

……ありがとうございます。
では、いいですか。
皆さん、絶対に後ろを振り向かないでください。
どんなことがあろうと、絶対に後ろを振り向いてはいけませんよ。
人間は、背後に対する霊感が特に優れているといいます。

なぜだかわかりますか?
それは、人間の目が後ろにないからです。
人間は、目に頼ったがために、霊感が衰えたといわれています。
よく、霊を感じるときは背中に感じるでしょう?

あれは、背中に目が、ついてないからなんですよ。
よく、背筋がぞくっとするというじゃないですか。
あれが、その類いです。

これから、皆さんに背中で、その『何か』を感じ取ってもらいます。
ですから、暗闇といえども、後ろだけは振り返らないでください。

目は開けていて結構です。
逆に、目はよく凝らして正面を見据えているほうがよいでしょう。
その代わり、全神経は、背中に集中してください。

そして、気配を感じ取ってください。

今、『何か』はこの部屋を回っているはずです。
皆さんの背後を、ゆっくりと回っているはずです。
……その気配を感じても、慌てないでください。
僕たちは気を落ち着けて、じっとしていればいいのです。

どうです?
背後に気配を感じましたか?
気をゆるめてはいけません。
汗が流れても拭わないでください。
動かないで……。
動かないで、全神経を集中して……。

驚かないで。
何が起きても驚いてはいけません。
息を潜めて……。
背中に神経を集中して……。
坂上君?
今、あなたの後ろ辺りにいる気がします。
坂上君の方から、強い霊気を感じるんですよ。

首筋に、何か感じませんか?
何かがまとわりついて、むずがゆい感じがしませんか?
何か、生暖かい風が、首筋に吹きかかる気がしませんか?
振り向いてはいけません。
絶対に、振り向いてはいけません……。

風間さんだ!
今のは風間さんの声だ!
「ちょっと待ってください! 今電気をつけますから!」

……風間さんは無事だった。
でも……。
風間さんの背中には、得体の知れないものがいた。
ドクロのような顔に、大きな目玉をぎょろりと光らせた餓鬼のような生き物が首筋から手を回して、覆い被さるようにへばり付いていた。

驚いて見ていると、そいつは一瞬にして消えてしまった。
まるで、風間さんの中に吸い込まれるように。

「……風間さん。あなた、後ろを振り向いたでしょ? 本当は、坂上君の後ろになんか、何もいなかったんですよ。最初から、あいつの狙いはあなたでしたから。ずーっと、あなたの後ろにいたんです。僕は、あなたが振り向くのを待っていたんですよ」

荒井さんが、口もとに笑みを作りながら、そういった。
けれど、目は笑っていなかった。
風間さんは、ボーッとしていた。
心なしか、顔色が悪いようだ。

「……そう? 何かあったの? 僕は、よくわからないけれど……。霊なんて、この世にいるわけないさ。
僕は何も見なかったから……」
とても、だるそうだ。
さっきまでの元気がなくなっている。

「……風間さん。あなた、取りつかれましたよ。けれどね、これで終わったわけじゃありません。まだ、この部屋にはいろいろなものが存在していますから。僕たちが、集めてしまったようですね。坂上君。今、あなたははっきりと見ましたよね?」

荒井さんが、僕を見た。
僕は、なんて答えればいい?
1.見た
2.見なかった