学校であった怖い話
>五話目(荒井昭二)
>G4

僕は止めなかった。
いや、正確には止められなかったんだ。
風間さんも荒井さんも本気だった。
お互いが、相手のことを憎らしく思っているのが感じ取れた。

憎悪は僕に向けられてはいなかったけど、なんだか鳥肌が立つ思いだった。
他人の感情が、こんなにも生々しいものだったなんて。
不意に女の子の悲鳴が上がった。

意外なことに、荒井さんの方が殴り掛かっていったのだ。
荒井さんのパンチは、風間さんの頬をかすめた。
「てめえ!」
あまり威力のあるパンチではなかったけど、それで風間さんは切れたようだった。

普段からは想像もつかない勢いで荒井さんを殴りつけた。
荒井さんは吹っ飛んで、棚に頭をぶつけた。
ズルズルと倒れてしまう。
まずい!
僕はあわてた。

あんなに強くぶつかったんじゃ、きっとケガをしただろう。
こうなる前に止めなかったことで、僕の良心は少し痛んでいた。
荒井さんに駆け寄る。
「大丈夫ですか、荒井さん?」

ぐったりしている手を取る。
ドキンと心臓が飛び跳ねた。
脈がない!?
あわてて探ったけれど、やっぱり脈は感じられない。
顔に手をかざしてみても、呼吸をしている様子はなかった。

「し……死んでる」
声が震えた。
みんなは驚いたようだった。
「本当か!?」
「ええ……脈もないし、息もしてません」
重苦しい沈黙が部室を包んだ。

みんなの視線が、自然に風間さんに集まる。
風間さんの顔は真っ青だった。
無理もない。
この若さで、殺人犯になってしまうなんて。
しかし、風間さんはとんでもないことをいい出した。

「……とりあえず、ここから運び出した方がいいな」
「ええっ!?」
耳を疑った。
現場を保存するのは、善良な市民の義務で、しかもそれが殺人なんて重大な事件なら、余計に…………。

風間さんは、僕の思いを見透かしたように、こっちを見た。
「君も見てたろ。荒井のヤツは、自分から僕に殴りかかってきたんだ。
僕の行為は、正当防衛だよ」
「で、でもそれなら、警察を呼んで、正直にそういえば……」
風間さんは肩をすくめた。

「本気でいってるのかい? 警察は犯罪者を作るのが仕事なんだ。
僕のいうことなんて、はなから信じちゃくれないさ。それに、こうなったのは、君たちが止めてくれなかったせいでもあるんだぜ」
それをいわれると弱い。

僕が止めていれば、こんなことにならなかったはずなんだ。
みんなも同じ気持ちだったようで、それ以上反論する人は誰もいなかった。
僕たちは共犯者だ。
いつの間にか、そんな気分になっていた。

「焼却炉に持っていこう」
誰かがそういい出した。
とてもいい案に思えた。
僕たちは、荒井さんの死体を抱えて、焼却炉まで行くことにした。
もちろん、一人では無理だ。

何人かで持ち上げるのが一番いいだろう。
女の子には、誰もいないか確かめる役を割り振るとして、僕はどうしよう?
1.足を持つ
2.腕を持つ