学校であった怖い話
>四話目(岩下明美)
>A8

「やっぱりあのとき、逃げなければよかった。こんなに後悔するなら、あのときに謝っておけば……」
そして広岡さんは折原さんに、明日、彼らを捜して謝ろうといったわ。

彼女も、そのほうがいいといって彼の意見に同意したわ。
二人は明日彼らを捜して謝ろう。
そして、その日の晩こそ、もう一度二人の愛を確かめあおうと約束をして別れたの。

もう、二人ともお互いを信じあってる瞳だったわ。
他人の口づけを見てしまったことが、逆に二人の絆を深めたのかもしれないわね。
そして、二人はうまくいくように思えた。
でもね……。

次の日、二人の男女が、桜の木の下で首を吊って死んでいるのが発見されたのよ。
遺書はなかった。
二人は、お互いの身体が離れないように、縄で縛りあって死んでいたの。

抱き合ったままね。
広岡さんは思ったわ。
死んだのは、自分たちが見てしまった二人に違いないだろうって。
きっと、二人の口づけを見られたために、不幸が訪れることを悲観して自殺を考えたのね。

この世で結ばれないのなら、天国で幸せになろうって、誓ったのよ。
あなたには信じられない話かしら?
そんなことで死ぬなんて、馬鹿らしいと思っているかしら?

でもね、昔の人たちは、恋愛というものに対してとても真剣だったのよ。
ふふふ……あなたにはわからないかもしれないけれど。
折原さんもまた、広岡さんと同じ思いだったわ。

二人は、その晩、昨日と同じ時間に同じ場所であったわ。
それでも、桜の木のところには行きづらかった。
ましてや、あの伝説を実行するなんて、とてもできる気分じゃなかった。

それでも、自分たちに見られたと思い死んでしまった二人のことを思うと、とても一人ではいられなかったの。
「……僕のせいです。あのとき、僕が逃げてしまったから、彼らは死んでしまった。……あのとき、事情を説明していれば、あの二人は死ななくてすんだかもしれません」

うつむき、広岡さんは力なく言ったわ。
折原さんは、ただ黙って泣いていた。
正直、これから先どうしていいか、二人にはわからなかった。
その時なの。
突然、二人を呼ぶ声がしたわ。

はっきりと耳で聞こえる声ではなくて、頭の中に直接呼びかけてくる声。
二人は、初めどこかで誰かに見られているのかと思って、びっくりしたわ。
けれど、人のいる気配は感じられない。
そして、今度ははっきりと聞こえたの。

「お前たちが殺したんだ」
という、恨めしそうな声が。
二人とも、がくがくと足が震えて動けなかった。
声は、追い打ちをかけるように言ったわ。

「お前たちが見てしまったせいで、二人の若い命が失われたのだ。お前たちが、よこしまな考えを起こさなければ、時は平和に流れたのだ。
お前が、本当に責任を感じているのなら、その責任とやらを取ってもらおうじゃないか」

声は、とても威圧的だったわ。
重苦しくて、優しさのかけらもないような声。
二人は、うつむいたまま黙ってしまった。
声は責任を取れと迫っている。

あなただったら、なんて答える?
1.責任を取ろう
2.責任を取る必要はない
3.お前なんかと話したくない