学校であった怖い話
>四話目(岩下明美)
>I8

「僕は、彼らの顔が見せませんでした。折原さんは、見えたんですか?」
心配そうに広岡さんは尋ねたわ。
彼女は、静かに首を横に振るだけだった。
それを聞いて、彼は決めたの。

黙っていることにね。
「このことは、僕たち二人だけの秘密にしましょう。そうすれば、彼らも僕たちのことは見間違いだったと納得してくれるはずですよ。そうすれば、彼らは不幸にならずにすむじゃないですか」

そう話すことによって、広岡さんは自分をも納得させたわ。
実際、それが一番よかったのかもしれない。
折原さんも、広岡さんに従うことにした。
そして、二人は一つの秘密を共有する仲になったの。

二人だけの秘密を持つって、大事なことよ。
秘密を持つとね、男女の仲は急速に進展するものなの。
桜の木の伝説も、もともとはそういう発想から生まれたものかもしれないわね。
そして、二人は明日の晩こそ、もう一度二人の愛を確かめあおうと約束して別れたの。

もう、二人ともお互いを信じあってる瞳だったわ。
他人の口づけを見てしまったことが、逆に二人の絆を深めたのかもしれないわね。
そして、二人はうまくいくように思えた。
でもね……。

次の日、二人の男女が、桜の木の下で首を吊って死んでいるのが発見されたのよ。
遺書はなかった。
二人は、お互いの身体が離れないように、縄で縛りあって死んでいたの。

抱き合ったままね。
広岡さんは思ったわ。
死んだのは、自分たちが見てしまった二人に違いないだろうって。
きっと、二人の口づけを見られたために、不幸が訪れることを悲観して自殺を考えたのね。

この世で結ばれないのなら、天国で幸せになろうって、誓ったのよ。
あなたには信じられない話かしら?
そんなことで死ぬなんて、馬鹿らしいと思っているかしら?

でもね、昔の人たちは、恋愛というものに対してとても真剣だったのよ。
ふふふ……あなたにはわからないかもしれないけれど。
折原さんもまた、広岡さんと同じ思いだったわ。

二人は、その晩、昨日と同じ時間に同じ場所であったわ。
それでも、桜の木のところには行きづらかった。
ましてや、あの伝説を実行するなんて、とてもできる気分じゃなかった。

それでも、自分たちに見られたと思い死んでしまった二人のことを思うと、とても一人ではいられなかったの。
「……僕のせいです。あのとき、僕が逃げてしまったから、彼らは死んでしまった。……あのとき、事情を説明していれば、あの二人は死ななくてすんだかもしれません」

うつむき、広岡さんは力なく言ったわ。
折原さんは、ただ黙って泣いていた。
正直、これから先どうしていいか、二人にはわからなかった。
その時なの。
突然、二人を呼ぶ声がしたわ。

はっきりと耳で聞こえる声ではなくて、頭の中に直接呼びかけてくる声。
二人は、初めどこかで誰かに見られているのかと思って、びっくりしたわ。
けれど、人のいる気配は感じられない。
そして、今度ははっきりと聞こえたの。

「お前たちが殺したんだ」
という、恨めしそうな声が。
二人とも、がくがくと足が震えて動けなかった。
声は、追い打ちをかけるように言ったわ。

「お前たちが見てしまったせいで、二人の若い命が失われたのだ。お前たちが、よこしまな考えを起こさなければ、時は平和に流れたのだ。
お前が、本当に責任を感じているのなら、その責任とやらを取ってもらおうじゃないか」

声は、とても威圧的だったわ。
重苦しくて、優しさのかけらもないような声。
二人は、うつむいたまま黙ってしまった。
声は責任を取れと迫っている。

あなただったら、なんて答える?
1.責任を取ろう
2.責任を取る必要はない
3.お前なんかと話したくない