学校であった怖い話
>隠しシナリオ1(坂上修一)
>I2

やめておこう。
今さら、そんなものを見たからってどうなるというんだ。
僕はベッドにごろりと横になった。
近ごろは、いつもこうだ。
あの六人といっしょに、僕の中の何かも消えてしまったのだろうか。

何もやる気が起きない。
僕は、深くため息をついた。
……クスッ。
何だ?
今、確かに何か聞こえた。
僕は部屋を見回した。
誰かいるのか!?

目に入るのは、普段と変わらない部屋だ。
だけど、今の気配は……。
クスクス……。
まただ!
やっぱり、この部屋には僕以外の誰かがいるんだ。
「だ……誰だ?」

声がうわずった。
何者かの笑い声は、大きくなった。
そして、聞き覚えのある声。
「冷たい人ね。もう忘れちゃったの?」
まさか!?
幻聴か?

ここで、この声が聞こえるわけないのに。
「それが、聞こえるんだなあ」
悪戯っぽい声の主が、その時姿を現した。
まるで、見えないカーテンを引き開けたように、突然に。

僕は、信じられないという思いで、彼女を見つめた。
「ふ……くざわ……」
僕の目の前に立っているのは、福沢玲子だったのだ。
「何よ、幽霊でも見たような顔しちゃって」

そんなことをいったって……。
僕の目の前で消えたくせに。
名簿にも載っていなかったくせに。
今だって、いきなり何もないところから現れた。
これが幽霊じゃないっていうのなら、いったい何だというつもりなのだろう。

「頭の固い奴だよな、ったく」
部屋の反対側から別の声がした。
この声は……。
「新堂さん!?」
いつの間にか、新堂さんが机に腰かけていたのだ。
「自分の理解できることしか、この世には存在しないと思っているんじゃないかい」

その横の椅子には、細田さんが座っている。
「あら、でもそういうところ、嫌いじゃなくてよ」
「ええ、それだけ坂上君が真面目だってことですよ」

岩下さん、荒井さん、それに風間さんまで。
「そ……そんな」
僕は思わず、目をこすった。
風間さんが肩をすくめた。

「おいおい、超美形な二枚目のこの僕を、幻覚だなんていうんじゃないだろうね?」
つっこみを入れる気もなくす、このいい方。
間違いなく、風間さんだ。
じゃあ、他のみんなも?

「やっとわかったみたいね。この前あなたと七不思議の話をしたのは私達よ」
福沢さんがにっこりと笑った。
「ど、どうして……」
思わずつぶやいた。

でも、何を質問したのか、自分でもよくわからなかった。
聞きたいことは、たくさんあった。
あの話は、みんな嘘だったのか?
なぜ、あんな風に消えてしまったのか?

ドアも開けず、どうやって部屋に入ってきたのか?
そして何よりも、あなたたちは何者なのか?
……けれど、彼らは、そのどれにも答えるつもりはないようだった。

「驚かせてしまいましたね。実は、あれは試験だったんですよ」
荒井さんが、ニコニコと笑いながらいった。
試験だって?
「そう、あなたが、私達の仲間にふさわしいかを確かめるためのね」

「そしておまえは、合格したってわけさ」
みんなは親しげに笑いながら、僕に近づいてくる。
「あ……あなた達の仲間って……幽霊ということじゃないんですか」
僕の言葉に、細田さんは鼻を鳴らした。

「まだ、そんなことを。いいかい、僕達は学校に棲んでいるんだ。年をとることもなく、永遠にあの学校を見守っていくためにね」
「あなたは、長い夢の中にいるのよ。
私達の仲間になれば、みにくい現実になんか戻らなくていいの」

「仲間に選ばれるなんて、滅多にないことなんだよ。前の時から、もう十年くらい経っているんだから」
そんなに長く?
この人たちは人間ではないのか。
僕は目の前の微笑みを見上げた。

「俺たちが一人ずつ消えても、おまえは話を続けさせようとした。その度胸が気に入ったのさ」
「私に殺されかけたっていうのに、すぐ気持ちを切り替えられる冷静さもね」
「僕の時も警察を呼ぶかと思ったのに、そうしなかったんですよね」

「それらを総合して、君は合格ということになったのさ。嬉しいだろう?」
「え……」
別に、そんなつもりはなかった。
あまりにも事件が起こるので、呆然としていたという方が正しい。

結果的には、みんなが消えていくのを黙認したことになるのかもしれない。
でも、初めからそうするつもりだったわけでは…………。
……いや、そうだろうか?
心のどこかでは、本当に人が消えれば、いい記事になると考えてはいなかったか?

僕は、自分の心の中をのぞき込んでみた。
そして、そこに見えた心は……。
1.みんなが消えるのを期待していた
2.絶対にそんなことはない