晦−つきこもり
>一話目(真田泰明)
>N2

当たり、ははっ。
でもそのいい男というのは俺なんだけどね。
実は俺とそっくりの肖像画が描かれていたんだよ。
俺はCGの復元現場を見にいったんだ。
絵のうしろにもう一つ絵が隠されているという、知らせがあったからね。

現場にいくと、風間望っていう担当者がいた。
「どれだい、うしろに描かれていた絵というのは?」
そういって風間のモニターを覗きこんだらさ。
俺とそっくりな肖像画が、復元された絵画の上にオーバーラップしていた。

世の中には似た人間がいるのは認めるが、どう見ても俺そっくりなんだ。
俺と似ている人間が、当時のヨーロッパで描かれていたんだよ。
しかも、俺のお気に入りの服を着ていたんだよ。
正直言ってまいったね。

既に年代鑑定も終わってて、確実に当時の物だと証明されている。
誰か、説明してくれって、感じだったよ。
「風間君、これはどういうことなんだ!?」
俺はその映像を指差していったんだ。

しかし、彼は曖昧に答えるだけだった。
「なぜ、俺とそっくりな絵が描かれているんだ」
俺は独り言のようにそう呟いた。
「この絵画の年代はいつなんだ」
「え……………?」
風間は答えなかった。

「なぜ、早くにいってくれなかったんだ」
そういって、つい彼に八つ当たりしてしまったんだ。
「すまん……………」
俺は謝った。
彼は少し興奮して赤くなっているようだ。

(何か俺にいえない事実をつかんでいるのか)
そして俺は彼がこれからいうことに身構えたんだ。
「だって、そんなこと気軽にいえるわけないじゃないですか」
「ありがとう、そんなに気をつかわなくてもいいよ」
精一杯の強がりだった。

「ここじゃいえません。
昼に屋上まで来てください」
「わかった」
俺は言葉短かに答えると、その場を去った。
昼に彼が何を語るかを考えた。
(風間は何を知っているんだ)

しかし、中世の絵に自分の肖像画が描かれていることを、理論的に説明することはできなかった。
そして昼になった。
悩んだよ、世の中には知らない方がいいこともある。

葉子ちゃんはそんな風に思ったことないかな。
1.うん
2.ううん