晦−つきこもり
>一話目(鈴木由香里)
>I7
そうそう。
エレベーターは確かに速いんだけど、来てない時は完全にアウトだもんね。
その時の私たちに、エレベーターを待っている時間はなかった。
だから、急いで階段を駆け上ったの。
上へ……、上へ……。
とにかく上ったよ。
どんなに急いでも、男に追い付かれそうで走るしかなかったからね。
でもね、今度は階段の終わりが見えないんだ。
いくら地下から上ってるからって、高層ビルじゃないのに……。
私も松尾さんも、もうフラフラ。
走ってるっていうよりは、手すりにつかまって歩いてるって感じだった。
こんなに走ったんだから、もう大丈夫なんじゃないか……?
そんな思いが、頭をよぎる。
その瞬間!
「きゃーーーーーーーー!!」
悲鳴を上げて、松尾さんが階段から落ちたんだ。
あっと思って伸ばした手は、一瞬だけ触れたけど、すぐに離れてしまった。
そして、私まで足を踏み外して、階段から転がり落ちてしまったんだよね。
床にぶつかる!
って思ったけど、なかなかその瞬間が来ない。
私は、そのままずーっと落下してった。
このまま落ちたらどこへ着くんだろう?
そんなことを考える余裕すら出てきてた。
私って、トラブルを楽しんじゃうタイプなんだよねぇ。
このまま行くのも悪くないな。
なーんて思いはじめてた。
するとさぁ、
「お前なんか嫌いだ!!」
って声がして、私は、見えない壁に跳ね返されてしまったの。
急に、目の前の空間が歪んで、私は見覚えのある場所に座り込んでたんだ。
そこは、最初に私たちが作業していたフロアの、エレベーターホールだった。
背中と腰が痛い。
あの壁にでもぶつけたんだろうか?
そこに、松尾さんの姿はなかったよ。
あの倉庫に連れ戻されたのか。
それとも、どこか別の場所に落とされたのか……。
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