晦−つきこもり
>一話目(鈴木由香里)
>M7

三階?
葉子……、わからないんなら素直にそういったらいいじゃん。
それに、こっそり聞くんなら良夫なんかより、泰ニイの方がまだマシってもんよ。
普通、『B3』っていったら地下三階のことを指すんだよ。

だけど、その階は、本物の地下三階じゃなかったんだ。
よーく見ると、『B』の文字が歪んでる。
誰かが、イタズラで三階の『3』という表示の横に落書きしてたんだよ。
私たちが作業してたのが四階だったから、そこはちゃんと一階下のフロアってことになるね。

別に、エレベーターにおかしな点はなかったんだ。
ほっとしたのも束の間、不幸はその後やって来た。
売り場へ入れなかったのさ。
どこも厳重に鍵がかけられてた。
しかたなく私たちは、エレベーターに乗って一番下の階まで下りることにしたんだ。

倉庫なんて、大体そんな所にあるもんだからさ。
一番下の階は、地下三階。
エレベーターの向かいの壁には、きちんとした表示で、『B3』と、書かれてた。
今度こそ、本物の地下三階だよ。

エレベーターホールには、業務用エレベーターと階段の他には、大きめのドアが一つあるだけ。
ペンキがはがれて、ところどころ金属の露出している、そのドアからは、『倉庫』の文字が、かろうじて読みとれた。

「早く入ろうよ」
松尾さんに促されて、ドアを開けようとしたんだけど、錆付いていたらしくて、ドアは動かない。
男の子を連れて来てれば……。
それでも何とか、二人がかりでドアを押し開けた。
そして、中を見て……、

「何よ、ここ!?」
声をあげたのは、二人同時だったと思う。
倉庫の中は埃だらけで、恐ろしく汚かった。
物がまったく整理されてなくて、乱雑に置かれてたんだ。

置かれてた……。
この表現は適切じゃないなぁ。
そう、投げ散らかされてた!
部屋の中で竜巻が起こったみたい……。
と、でもいっておこうか。
管理が、まったく行き届いてなかったのさ。

こんな所に長居はしたくなかったけど、手ぶらで上に戻るわけにも行かないから、どれか適当なマネキンを持って行くことにしたんだ。
天井の蛍光燈は、所々消えてたり、点滅してたりで、なんだか頼りない。
その明かりの下で、私たちはマネキンを探したんだよ。

それは、考えてたよりも大変な作業だった。
管理が行き届いてなかったって、いったよね。
そう、マネキンはバラバラだったんだ。
パーツが散乱してるから、一体分が、なかなかそろわなかったし、しかも、あるパーツだけ、どうしても見つからない。

それはどこだと思う?
1.腕
2.足