晦−つきこもり
>一話目(鈴木由香里)
>O8
三階?
葉子、いくらわからないからって、良夫に聞くのはやめなよ。
まだ泰ニイの方がマシだって。
普通、『B3』っていったら地下三階のことを指してんの。
わかった?
私たちは、一気に地下三階まで運ばれちゃってたんだよ。
「夜間は、直通運転なんだね」
ふいに、松尾さんが納得したようにつぶやいてた。
エレベーターホールには、業務用エレベーターと階段の他には、大きめのドアが一つあるだけ。
ペンキがはがれて、ところどころ金属の露出している、そのドアからは、『倉庫』の文字が、かろうじて読みとれた。
「早く入ろうよ」
松尾さんに促されて、ドアを開けようとしたんだけど、錆付いていたらしくて、ドアは動かない。
男の子を連れて来てれば……。
それでも何とか、二人がかりでドアを押し開けた。
そして、中を見て……、
「何よ、ここ!?」
声をあげたのは、二人同時だったと思う。
倉庫の中は埃だらけで、恐ろしく汚かった。
物がまったく整理されてなくて、乱雑に置かれてたんだ。
置かれてた……。
この表現は適切じゃないなぁ。
そう、投げ散らかされてた!
部屋の中で竜巻が起こったみたい……。
と、でもいっておこうか。
管理が、まったく行き届いてなかったのさ。
こんな所に長居はしたくなかったけど、手ぶらで上に戻るわけにも行かないから、どれか適当なマネキンを持って行くことにしたんだ。
天井の蛍光燈は、所々消えてたり、点滅してたりで、なんだか頼りない。
その明かりの下で、私たちはマネキンを探したんだよ。
それは、考えてたよりも大変な作業だった。
管理が行き届いてなかったって、いったよね。
そう、マネキンはバラバラだったんだ。
パーツが散乱してるから、一体分が、なかなかそろわなかったし、しかも、あるパーツだけ、どうしても見つからない。
それはどこだと思う?
1.腕
2.足