晦−つきこもり
>一話目(鈴木由香里)
>W5
そう、階段を選んだんだ。
だって、一階下りるだけじゃん。
わざわざエレベーターなんて呼んでられないよねぇ。
私たちは、ほんの一階だけ、階段を下りた。
でもさ、結局、他の階の売り場へは入れなかったんだ。
他の階は、どこも厳重に鍵がかけられてた。
がっかりすると同時に、すっかり歩く気が失せちゃって、私たちは業務用エレベーターを呼んだよ。
業務用エレベーターってさぁ、大きいんだけど、半端じゃなく汚いんだ。
生ゴミの腐ったようなにおいと、鉄独特のにおいが混じりあってて、ひどく臭かった。
あまりの臭さに、二人とも黙り込んじゃってたよ。
できるだけ、息をしたくなかったからさ。
ゴォーッという機械音だけが、大きく聞こえて……。
そのうち、おかしなことに気付いたんだ。
私は一階だけ下りるつもりで、ボタンを押したはず。
それは間違いない。
なのに一階下りるだけで、こんなに時間がかかるなんて絶対、変!
その時、ガタンと揺れて、エレベーターが止まったんだ。
ピンポーンという軽い音がして、ドアが開くと……。
エレベーターホールの壁には、
『B3』
と、書かれてた。
知ってる?
地下三階のことだよ。
「夜間は、直通運転なんだね」
ふいに、清水君が納得したようにつぶやいた。
エレベーターホールには、業務用エレベーターと階段の他には、大きめのドアが一つあるだけ。
ペンキがはがれて、ところどころ金属の露出している、そのドアからは、『倉庫』の文字が、かろうじて読み取れる。
「早く入ろう」
清水君はそういいながら、ドアを開けようとするんだけど、錆付いてるのかドアは動かない。
顔を真っ赤にして力を込めてるけど、ドアはびくともしないんだ。
私も手伝って、二人がかりで挑戦してみたけど、ちっとも動かなかった。
押しても、引いても駄目。
まったく、近頃の男の子ってだらしないんだから。
……仕方なく私たちは、残してきた二人のところへ戻ったよ。
手ぶらで戻った私たちの話を聞いて、二人は大笑い。
笑われたのは、清水君の方だからいいけどさ。
それで、松尾さんていう女の子が、彼と交代することになったんだ。
もう一人いたのは、バイト先の主任だったんだけど、ものすごい怖がりで、絶対自分が行こうとはしなかったよ。
まったく、どいつも、こいつも、軟弱なんだから!
でも、そうだなぁ。
そういう人を、無理矢理連れて行くのも楽しそう。
今度、試してみようっと。
とにかく、今回は、松尾さんと倉庫へ向かったんだ。
何とか二人がかりで、やっとドアを押し開けることが出来た。
「何よ、ここ!?」
声をあげたのは、二人同時だったと思う。
倉庫の中は埃だらけで、恐ろしく汚かった。
物がまったく整理されてなくて、乱雑に置かれてたんだ。
置かれてた……。
この表現は適切じゃないなぁ。
そう、投げ散らかされてた!
部屋の中で竜巻が起こったみたい……。
と、でもいっておこうか。
管理が、まったく行き届いてなかったのさ。
こんな所に長居はしたくなかったけど、手ぶらで上に戻るわけにも行かないから、どれか適当なマネキンを持って行くことにしたんだ。
天井の蛍光燈は、所々消えてたり、点滅してたりで、なんだか頼りない。
その明かりの下で、私たちはマネキンを探したんだよ。
それは、考えてたよりも大変な作業だった。
管理が行き届いてなかったって、いったよね。
そう、マネキンはバラバラだったんだ。
パーツが散乱してるから、一体分が、なかなかそろわなかったし、しかも、あるパーツだけ、どうしても見つからない。
それはどこだと思う?
1.腕
2.足