晦−つきこもり
>一話目(藤村正美)
>A1

私が一話目を話すのですね。
そう……葉子ちゃんも知っての通り、私は看護婦をしています。
患者さんのお世話をしたり、薬品の管理をしたりで忙しくって、大変な仕事です。
でも、そんなことは苦じゃありませんわ。

患者さんの喜ぶ顔が見られれば、それだけで報われた気持ちになりますもの。
その顔を見たいから、一所懸命お世話をするんですのよ。
……けれど、医学の手が及ばずに、亡くなってしまう患者さんもいます。
昔、私がまだ、見習い看護婦だった頃の話ですわ。

私が研修に行っていた病院は、ベッド数が五百を超える、大きなところでした。
最上階には、フロアをまるごと使用した、大きくて豪華な病室が作ってありました。
お風呂やお手洗い、応接室、付き添いの人用のベッドルームまであったんですわ。

よく仲間同士で、「VIPルーム」なんて呼んでいました。
その特別室には、一人のおばあさんが入院していましたの。

確か名前は……そう、中山さんといいました。
どこが悪いというわけではなくて、お年だったから、身体が弱っていたんでしょうね。
ほとんど寝たきりの状態でしたわ。

そういえば、彼女に関しては一つ、不思議なことがありました。
私が初めて、彼女の病室へ行ったときのことです。
彼女は上半身を起こして、私を迎えてくれたんですわ。
それを見た途端、頭の中に、ある風景が浮かびました。
不思議でしょう。

葉子ちゃんは、そんな経験があるかしら?
1.ある
2.ない