晦−つきこもり
>一話目(前田良夫)
>D4

まあ、そんなもんだよな。
俺は思うんだけど、人間は誰でも、夜中の便所が怖いんじゃないかな。
そういう風に、できてるんだよ。
だから、俺は友達を起こすことにしたんだ。
「小坂! おい小坂! おまえ、便所に行きたいだろ?」

寝ぼけ眼の小坂は、よくわかっていないようだった。
とにかく、俺たちは二人で便所に行ったんだ。
小さな常備灯しかない、暗い廊下を歩いていると、やっぱり誰かを誘ってよかったって実感したな。

やがて、廊下の突き当たりに、便所のドアが見えた。
ホッとしたとき、廊下の隅で何かが動いたんだ。
俺は立ち止まって、じーっと見つめた。
そうしたら、そいつが俺たちの方へ来るじゃないか。
そいつは、常備灯のぼんやりした明かりの下に出てきた。

……心臓が、どきんと跳ね上がったぜ。
骸骨だったんだよ!
両手と両膝を床につけて、赤ん坊みたいに俺を見上げていた。
「うわああっ」
情けない悲鳴をあげて、小坂が逃げ出した。
俺も、あわてて後を追ったよ。

背中越しに、骸骨も走り出したのがわかった。
横目で見ると、よつんばいのまま追いかけてきてるんだ!
手も足も、動いていない。
廊下を、ものすごい勢いで滑ってくるんだよ。

俺と小坂は、死にものぐるいで走ったぜ。
全速力で走れば、簡単には追いつかれないと思ったからな。
ほら、俺って陸上の選手じゃん。
知ってるだろ?
1.知っている
2.知らなかった