晦−つきこもり
>一話目(前田良夫)
>F4

何だよ、強がって。
怖がりのくせに。
……俺だって、平気だったけどな。
だから、一人で行くことにした。
友達を起こすなんて、絶対に嫌だったしさ。
そんなことしたら、後で笑いものになるに決まってる。

俺は奴等を起こさないように、そっと真っ暗な廊下に出たんだ。
もう、家の人も寝たんだろうな。
物音一つ、しやしない。
耳を澄ますと、厚い雨戸の向こうで、かすかに虫の音が聞こえたぜ。
俺、だんだん怖くなってきちゃってさ。

もしかしたら、もうこの家の中には、わらし様がいるのかもしれない。
俺が起きているのが見つかったら、ただじゃ済まないかも……。
そう思ったら、胸がドキドキしてきた。
できるだけ早く、部屋に戻ろう。

息を殺して、忍び足で便所に急いだんだ。
廊下の突き当たりに、ドアが見えたときは、ホッとしたな。
ドアを開けようと、手を伸ばす。
…………そのとき、中で音がした。

小さな音だったけど、間違いない。
まさか、中に何かいるのか?
そういえば、何かがゴソゴソと動いているような気配を感じる。
胃の辺りが、きゅーっと痛くなった。

だけど、そのとき思い出したんだ。
立川の家では、確か猫を飼っていたはずだ。
虎縞の雑種で、人なつこい奴。
葉子ネエ、猫って好きか?
1.好き
2.嫌い