晦−つきこもり
>二話目(真田泰明)
>K8

そうか、実は片桐はその後、死んだんだよ、ドラマの撮影中に。
主人公の坂田が入れたコーヒーを片桐が飲むシーンだった。
「シーン168いきます」
そして、コーヒーカップを手に取ると、ゆっくり口に運んだんだ。
「う、うぎゃーっ」
片桐は苦しみだした。

周りのスタッフは、その迫真の演技に心を奪われていたんだ。
そして、片桐はぐったり倒れた。
「カット、OK!」
シーンが終了してから、少し間があった。
カメラマンもカメラを止めるのを忘れるほど、その演技に見とれていたんだ。

そしてスタッフ全員は片桐に賞賛を贈った。
倒れた片桐の周りに歓喜が溢れたんだ。
しかし、その歓喜の中、全然立ち上がってこない彼に、一人のスタッフが駆け寄った。

「片桐さん、みんなが待ってますよ………。片桐さん、片桐さん………、死んでます………、ディレクター……、本当に死んでます…………」
その駆け寄ったスタッフはそういったんだ。
あたりは一瞬、静まりかえり、みんなの動きが止まった。

そしてやっとディレクターが叫んだ。
「救急車!」
救急車が来て、程なく病院に運ばれたんだけど、片桐は完全に息をひきとっていたんだ。
病院で原因を調べたんだけど、死因は不明だった。
そしてその日から、坂田は行方不明になった。

片桐が死んだあの騒ぎの中でいなくなってしまったんだよ。
警察も不自然だといって、事情を聞くため坂田を必死に探したけど、結局見つからなかった。
そのうえホテルの坂田の部屋は、数日前から使った形跡が無かったそうだ。
えっ、この話かい。

ホテルの片桐の部屋から手帳が出てきてさ。
その手帳に今話したことが書かれていたんだ。
『坂田を何度も殺そうとした』
いや、殺したと書いてあったんだけど。

その後も何人ものスタッフが坂田を見てるんだから、取り敢えず彼は精神的におかしくなっていたんじゃないか、ということになったんだ。
坂田が片桐を殺したんじゃないかっていうことも断定できなかったんだよ。
しかし、この話には後日談があってね。

俺達が忘れかけたころ、一年ぐらいたってたかな、坂田が見つかったんだよ。
あのロケ地だったところで、死体で発見されたんだ。
死後、一年経過していたそうだ。
ただ、片桐の死の前か、後かはわからなかった。

でも、状況を見る限り、片桐を殺して、その後自殺したんだろうという意見が大半を占めたんだ。
死因は服毒死だった。
片桐の手帳に坂田を殺すのに使ったと書いてあった毒と同じものだったらしい。
だからって、片桐の手帳に書いてあった通り、毒殺のシーンで殺されていたわけはないよな。

だってその後、坂田はみんなの前で演技していたんだから。
あのときの坂田が幽霊なんて、とても思えないよ。
……あれっ、そういえば、あのドラマが制作中止になったあと、フィルムを誰も確認してないな。
なぜ、誰も気がつかなかったんだ。

ちょっと、調べてみる必要があるかもしれない。
どう思う、葉子ちゃん、映ってるかな?
1.映ってる
2.映っていない
3.映っていてほしい
4.映っていないでほしい


◆3番目の選択肢で「2.そんな、迷惑じゃない?」を選んでいる場合の選択肢
2.映っていない