晦−つきこもり
>二話目(山崎哲夫)
>A5

へぇー、そうなんだ。
まあ、葉子ちゃんらしいといえば、葉子ちゃんらしいよな。
いや、何でこんなこと聞いたかというとな。
しばらく進んでいくと、川が横切っていたんだよ。
その川を突っ切っていけば、目的の崖まで、まっすぐに行くことができるんだ。

渡らないで川沿いに行っても、そこまで行くことができるんだけどな。
ちょっと、遠回りになってしまうんだ。

葉子ちゃんだったら、こんな時は川を迂回していくんだろうけどな。
自分らは、川を渡っていくことにしたんだ。
その方が明らかに近いしな。
小さな浅い川だったし、そんなに問題はなかった。

途中で、何度も滑りそうにはなったが、何事もなく渡りきることができたよ。
それから、また森の中だ。
相変わらず、暗くじめじめとした、いやな雰囲気の所だったよ。
しばらく進んでいるとな、何だか、奇妙な感じがしてきた。

なんとなく自分ら以外の人の気配がしはじめたんだ。
でも、そんなことがあるはずがないよな。
ここは、滅多に人が入るところじゃないんだから。
自分らは、気にしないようにして進んでいったんだ。

しばらくは、それでよかったんだがな。
やっぱり誰かがいるような気がするんだよ。
どうも変だよななんて、話していた時だった。
ついに自分らの前に姿を現したんだ。

そこにいたのは、誰だったと思う?
それは、風間だったんだよ。
自分らは、驚いたよ。
まさか、こんなところに風間がいるなんて、思ってなかったからな。
風間は、自分らの前で、きょとんとした顔をしながら、じっと眺めていた。

あの森には入らない方がいいって、いってたくせに、自分も入ってきているんだからな。
自分らとばったり会ったんで、ばつが悪かったんだろう。
「やあ、風間さん。こんなところで会うなんて、奇遇ですなぁ」

自分らは、皮肉たっぷりにいってやったよ。
するとな、風間は、ガタガタと震えながらいったんだ。
「うわっ、た、狸がしゃべったぞ!」
そういって、後ずさりして行くんだ。

自分らは、何をいっているのか、全く理解できなかったよ。
自分は風間に聞いてみたんだ。
こんなところで何をしているのかって。
すると、風間は信じられないって顔をしてな。
なんで、狸がしゃべるんだって、取り乱しているんだ。

自分は風間に近づいていこうとした。
すると、風間は大きな声で叫んだんだ。
うわぁーーーーっ!
狸がしゃべったぁーーーーっ!!
ってな。
そして、森の奥に向かって、一目散に走っていってしまったんだ。

自分らは、お互いに顔を見合わせた。
見た感じ、風間は自分らを見て、狸がしゃべったといっているみたいだった。
それで、一目散に森の奥に走っていったんだ。
頭がおかしくなったのか、それとも、自分らには見えないなにかを見たのか……。

このままほっといていいものだろうか。
どう見ても、普通じゃなかったし。
葉子ちゃんだったら、どうする?
追いかけていくかい?
1.追いかけていく
2.気にせずに先に進む