晦−つきこもり
>二話目(山崎哲夫)
>W7

がはははは。
そうだよな。
いや、ちょっと聞いてみただけなんだ。

それよりさ、さっきの話の続きなんだけど……。
自分らは、無事に旅館に帰ってきたんだ。
玄関では、主人の風間が出迎えてくれた。
風間は、軽い調子で、聞いてきたんだ。
今日は、楽しかったかって。

自分らは、今日起きたことを話したよ。
すると、風間は、感心したような顔をして、こういった。

「へぇーっ、そうだったんだ。それは、大変だったね……。でも、君たちも馬鹿だね。根も葉もない噂を信じて、遠方はるばるこんな所まで来てしまうんだから。僕には、君たちのような、熱い男のことなんか、全く理解できないよ」

何だか、自分らは、馬鹿にされているような気がしてな。
思いっきり、風間のことをにらみつけてやったんだ。
すると、風間は急におびえたような表情をして、叫んだんだ。

「うわぁっ!
やっぱり君たち、憑かれているよ。
だから、あの森に行くのは、やめろといったんだ!」

自分には、風間が何をいっているか、理解できなかったよ。
自分らが、きょとんとしているとな、風間は大きな声で、もう一度いったんだ。
君たち全員が、憑かれているって。
自分は、信じられなかった。

まさかと思ったんだ。
まったく自覚のない、自分までもが憑かれているなんて!
みんな青い顔をして、お互いに顔を見合わせていたよ。

「おい、本当なのか?
憑かれているなんて、全くそんな気がしないぞ!そういうものなのか!?」
自分は、風間に聞いてみたんだ。
「そ……そんな……。つかれているのに、気がつかないなんて、これは重症だ……」

あああぁーーっ、どうしよう、葉子ちゃん!自分は、憑かれてしまった!
風間は青い顔をして、脂汗を流している。
「き、君たちには、わからないのかい?
特に足がひどい。……ほら、足が震えているじゃないか!」

た、確かに、足は震えているが、これは歩きづらい森の中を歩いたからだ。
「あ……」
もしかして、風間がいっているのは……。
風間を見ると、自分の方を見て、にやにやと笑っていた。

「おっと、気づいたみたいだね。
どうだい、僕のいったとおりだろう?
君たちは、つかれているんだよ。
あんな道もない森の中に入ったら、疲れるに決まっているだろう。

そんなに足が疲れて震えるほど、歩かなくてもいいじゃん。バカだね、君たちは。僕の忠告を聞いておけば、よかったんだよ。……おや、手も疲れているのかい?
手が震えているよ」

自分は、滅多に怒らない人間なんだけどな。
さすがにあのときは、堪忍袋の緒が切れたよ。

自分はな、とうとう我慢できなくなって、風間に殴りかかってしまったんだ。
風間は、人間離れした早技で、スルリと自分の鉄拳をかわした。
すかさず自分は、風間の反撃に対応するために、素早く振り返ったんだ!

「あれ……」
……自分らは、目を疑ったよ。
風間が、いなくなっていたんだ!
それどころか……旅館自体もなくなってしまっていた!!
信じられるかい?葉子ちゃん。
信じられないだろう?

確かに自分らは、旅館の玄関に立っていたはずなんだ。
それなのに、気がつくとそこは、道脇の畑の中だったんだよ!
自分らは、町の人に風間という男が経営している旅館を知らないかと、聞いてみたんだ。

でもな、この町には、そんな旅館なんてないっていうんだ。
しかも、風間なんて名字の人間は、この町にはいないというんだよ。
不思議だよな、信じられる?

自分らは、間違いなく風間旅館に泊まったんだ。
それなのに、そんなところなんてないというんだよ。
はぁ……、風間、風間。
風間望……。
奴は、いったいなんだったんだろう。
もしかして、自分らは、狸に化かされたのか?

葉子ちゃんは、どう思う?
1.それは狸の仕業だわ
2.おかしいのは哲夫おじさんよ