晦−つきこもり
>二話目(藤村正美)
>H6

若いのに、悲観的だなんてよくありませんわよ。
気持ちを明るく持たなければ、楽しく生きられませんわ。
私?
もちろん、明るく暮らしていますわよ。
こんな充実した毎日を、送っているんですもの。

白くて明るい、清潔な病院と、やさしくて素直な患者さんたち。
これ以上望んでは、罰が当たってしまいますわ。
でも今は、私のことを話しているのじゃありませんわ。
話の腰を折らないでいただけるかしら。

吉村先生は、あなたのように悲観的な方だったんですの。
だから、正面にあるカーテンの影に隠れました。
何とか全身が隠れた一瞬後、ドアを抜けて、白い何かがすべり込んできました。
悲観的な人でも、たまには得をするものですわね。

そこに立っていたのは、ふくらはぎから下しかない、一対の足だったのです。
足は、まっすぐに、こっちへ向かっています。
フワフワと、まるで空気を踏みしめるようにね。

滴り落ちる水滴が、足跡の代わりに床に残っています。
逃げた方がいいのかもしれません。
どんどん距離が近づいてゆきます。

ふくれあがる恐怖に、息が詰まりそうです。
心臓の音が、耳鳴りのように頭に響きます。
こんな緊張に耐えられます?
1.耐えられる
2.耐えられない