晦−つきこもり
>二話目(前田良夫)
>R3

へえ、そうなんだ。
でも俺は、肝試しを選んだよ。
怖い話なんて、いつだってできるじゃん。
今だって、こうしてやってるんだし。
それに比べて肝試しなんて、する機会があんまりないもんな。

とにかく消灯後、俺たちはこっそり集まった。
ところが、十五人以上来るはずなのに、七人しか来ないんだよ。
ビビッたのか、先生に見つかったのか……。
だけど、いつまでもグズグズしてられない。

俺たちまで先生に見つかったら、たまんないもんな。
打ち合わせ通り、俺たちは二組に分かれた。
肝試し組は俺ともう三人、残りの三人が怪談組だ。
で、俺たちは懐中電灯を持って、出発した。

「ねえねえ、森に行ってみましょうよ。なんだか怖そうじゃない?」
女子の一人がいった。
俺は、あんまり行きたくなかったんだ。
何となく、あの森は嫌な感じがしたんだよ。

でも、そんなこといえないぜ。
俺以外はみんな、すっかりその気になってるんだもんな。
しょうがなく、森に行くことにしたんだよ。
思った通り、不気味な森だったな。
俺は、その辺を適当にまわって帰るつもりだったんだけどさ。

「この森の真ん中に、古い塚があるんだって。そこに行って、帰って来るっていうのはどう?」
森に行こうっていいだした女子が、そんなことをいうんだよ。
はっきりいって、余計なこというなって感じだよな。
それで、森の奥まで行かなきゃいけなくなってさ。

虫の声一つ、聞こえやしない。
音らしい音といえば、俺たちの足音だけなんだ。
しかも、そのことに気づいてるのは、俺だけなんだよ。
他の奴らも、少しは変だと気づいてもいいのにな。
いくら友達だっていっても、あんなに鈍くさいんじゃなあ。

俺たちは十分くらい歩いて、なんとか塚らしい物を見つけた。
大きな石なんだけど、表面にコケが生えちゃってさ。
緑だか、灰色だか、茶色だか……。
何ともいえないような色の石だったっけ。

「何だ、大したことないわね」
そういって、女子が塚の表面に触った。
その途端、塚の隣りにボウッと、頭から血を流した侍が現れたんだ。
ちょんまげは解けて、ざんばら髪になってる。

着物は裂けていて、まるでボロ切れにしか見えなかった。
そして、その目。
カッと開かれた目の中には、瞳がないんだよ。

そいつは、女子の腕をつかんだ。
「見つけた……やっと見つけた……」
嬉しそうに、にたーっと笑っている。
その口元からも、血がたれてるんだ。

「た、助けてぇ!」
捕まった女子は暴れて、何とか逃げようとしている。
でも、全然動けないんだ。
これが金縛りって奴か?

確か金縛りって、解く方法があったよな。
どんなのだっけ?
1.小指を動かしてみる
2.お経を唱える