晦−つきこもり
>三話目(真田泰明)
>H6

まあ、手帳で彼の足取りはわかった。
俺はその現場に行ってみることにしたんだ。
彼の手帳に書いてあった場所は、内陸のある山間の町だった。
女優が素性を隠して、平和に暮らすには手頃な場所だな。
ただ実際に行ってみると、イメージがかなり違ったんだ。

近郊の都市のベッドタウン的な場所で、それほど秘密を保持するという雰囲気でもなかったのさ。
のんびりとした新興住宅街で、事件なんかとは無縁に思えたんだよ。
俺は、気をとりなおして手帳のメモの場所に向かった。

そこは分譲住宅の中にあったんだ。
まだ空き地で住宅は建てられていない。
出川はここで何を……?
俺は、その周辺をあてもなく歩いた。
平日の昼下がりのせいか、人通りはない。

暖かい日が差し、ほのぼのとした陽気で、奇怪な事件が起こっているとは、とても思えなかった。
ほどなく、俺は元の場所に戻ったよ。
その時さ……。
俺の目は、空き地の隣の住宅に釘付けになったんだ。

その家には、『北崎』という表札が掛かっていたのさ。
……ということは、この家は北崎洋子の家なんだろうか?
出川は彼女の取材をしていたんだから、手帳に彼女の住所が書かれていても、別に不思議なことじゃない。
ミステリーでも何でもなかったのか……。

謎に満ちた怪事件を少しでも期待していたのか、俺は拍子抜けしていたんだ。
だけど偶然ってこともありえるだろ?
それに、俺は心の奥に何か引っ掛るものを感じてたし……。
……いや。

ただ、謎に満ちた大事件に期待をつなぎたかっただけかもしれないな。
葉子ちゃんはその家のこと、どう思う?
1.でも、手帳に書いてあったのは、空き地の方でしょ
2.もう少し回りを調べてみたら