晦−つきこもり
>三話目(鈴木由香里)
>AB2

それは、葉子が、何不自由なく育てられたからだよ。
家族や友人に恵まれたんだね。
それも立派な才能の一つだと、私は思うな。
葉子がこのまま成長したら、きっと、暖かで穏やかな老後を迎えるんだろうね。

平穏無事な一生を送りたかったら、自殺とか、事故死とか、ましてや誰かに殺されるなんていう物騒な事件とは、かかわりあいたくないもんね。
葉子のことだから、初恋の人と結婚して子供は三人?
老後は、郊外の家でのんびりと。

子供や孫たちに囲まれた、にぎやかながらも落ち着いた日々。
そして、暖かい午後の昼下がりのテラスで、猫を膝に乗せながら、
「お婆ちゃーん」
って、孫が呼びにきた時には、微笑みながら死んでた……。
……なんていうのが、理想なんでしょ。

でもねぇ、そんな夢のような死に方を迎えられる人が、いったい何人いるんだか。
葉子は、人が死ぬ瞬間とか、人の死体とかって見たことってある?

私は、一回だけ死体を発見したことがあるんだ。
あれは、今、思い出してもゾクッとする体験だったなぁ。
葉子は、
「死にたいなんて思ったことない」
って答えたけど……。

もし、自分が自殺するとしたら、どんな場所で死ぬと思う?
真剣に考えてもいいし、パッと頭にひらめいた答えでもいいよ。
こんな風に自殺したいって、願望でかまわないんだ。
1.水辺
2.木や花に囲まれて
3.自分の部屋
4.どこでもいい