晦−つきこもり
>三話目(藤村正美)
>R3
まあ……葉子ちゃんたら、人が悪いですわ。
私、みにくいなんていわれたこと、なかったんですもの。
すっかり本気にしてしまいましたわ。
いくら、人間は顔じゃないといわれても、やっぱり美しいといわれたいものですわ。
葉子ちゃんだって、そうでしょう。
いいえ、答える必要はありませんわ。
わかっていますとも。
女性なら、誰でもそうでしょう。
少しでも美しくなりたい。
女性の永遠の願いですわ。
だからこそ、美容整形がはやったりするんですわね。
親にもらった体に傷をつけて……と怒る人もいますけれど、そんなこと関係ないと思いますわ。
自分の人生は、自分の物ですものね。
その人が、気持ちよく生きられるなら、それが一番ですわよ。
……なんて、偉そうなことをいってしまいましたわね。
実はこれ、私の知っている美容整形外科の先生の、受け売りなんですの。
浦野先生という、若くて美しい女性ですわ。
まるで、ご自分も整形したんじゃないかって、いわれていました。
そんなやっかみを受けると、いつも先生は微笑んでいましたわ。
「そうよ。私にかかれば、誰だってこのくらいは、きれいになれるのよ」
なんていって。
自分の顔を手術するなんて、無理に決まっていますよね。
でも、そのおかげで、浦野医院はいつも予約でいっぱいでした。
派手な宣伝はしなくても、患者さんの口コミで、すっかり有名でしたから。
それはともかく、若くしてお金持ち、しかも美人とくれば、男の方が放っておくわけありませんわよね。
相当、もててらしたようですわ。
中に一人、生真面目な青年がいたんです。
彼にはお金も、地位も学歴も、ありませんでした。
ただ浦野先生に一目惚れをして、それ以来一途に思い続けていたんですわ。
そういえば、一番純粋な愛の形は、一目惚れだといいますわね。
何度も会って好きになるのは、お金持ちだとか、自分に優しくしてくれるとか、打算が働いているからだそうです。
そういう条件が、いっさいわからないうちに好きになる一目惚れこそが、本当の恋愛なんですって。
その青年は一目惚れですもの。
浦野先生の財産に惹かれたとか、そんなことはなかったんですわ。
本当に純粋な人でしたから。
名前は……そう、武内さんといったはずです。
武内さんは、浦野先生に近づきたい一心で、その方法を考えました。
でも、そんなに多くの方法が、あるわけではありませんわ。
葉子ちゃんなら、どうします?
1.アルバイトで雇ってもらう
2.患者として会いに行く