晦−つきこもり
>四話目(真田泰明)
>D11

僕はスタジオに入った。
(だ、誰か居るのか………)
そのスタジオには明かりがついている。
僕は周囲を見回した。
「誰だ………」
スタジオの奥の方で、聞き覚えのある声がする。
音響部門の長である大村さんの声だ。

「大村さん、僕です………」
僕は呟くように大村さんの声に答えた。
大村さんは防音室から、顔を出す。
そして僕の顔を見ると、笑みを浮かべた。
「どうした北田君」
彼はゆっくり近づいてきた。

「怪我しているじゃないか………」
大村さんは僕の怪我に気付くと、足早に駆け寄る。
「いったい、どうしたんだ」
彼は僕の体を支え、怒るようにそういった。

「ひ、悲鳴が………、悲鳴に襲われたんです………」
僕はこれまでの出来事を彼に事細かに説明した。
そして話が終わると、彼は考え込むように沈黙した。
「北田君………、このビルになる前の建物で実は殺人があったんだ………。

当時のスタジオで、ある日、女性の死体が発見されたんだよ。
スタジオの食堂で働いていた、まあ、職場のアイドルっていう感じの人でさ。
警察はもとより、スタジオのスタッフも必死で手がかりを探した。
しかし結局、犯人捕まらなかったんだ。

ただその後、彼女が殺されたスタジオのオープンテープに、彼女の断末魔の悲鳴が記録されているのが発見された。
まあ、発見されたのは、事件後、何年も後のことだ。
当時のことを覚えていたのは、もう私以外に数人だった。

それで私は処分するのもはばかられ、あの倉庫に入れて置いたんだ………」
大村さんは当時を思い出す様に、遠くを見て語った。
「しかし、どうしたんだ………。
私も当時、その悲鳴を再生したけど、こんなことはおきなかった………」
彼は本当に、意外そうだった。

そして悲鳴に襲われたという話を聞いて、全く疑わなかった。
大村さんは話を続ける。
「彼女が人を殺すなんて………、しかし、監督はこのことを知っていた筈だぞ………、あいつは彼女のことをもう忘れたのか………」
彼はそういいきると、ドアに向かって歩き出した。

「大村さん………、どこに行くんですか………」
大村さんは僕の方を少し微笑むと、ドアのノブを取る。
1.大村さんを止める
2.大村さんを黙って行かせる