晦−つきこもり
>四話目(鈴木由香里)
>D3

おまじない人形?
そっかー、そう読むこともできるんだ。
『呪い』って文字は、『のろい』とも『まじない』とも読めるからね。
そのショップで販売してたのは、紙製の呪詛人形だったのよ。

さっきもいったように、ショップの店長であるマザー・アンジュって占師が本職だからさぁ。
当然ショップの中には彼女の占いの部屋があって、連日いろんな人が悩みを抱えて来るわけさ。

占いの結果が良好の場合は、それ程問題じゃないんだけどさぁ、思わしくない……最悪って出た場合なんかは、もう大変なんだって。
泣く、わめく、騒ぐ、怒る、……ショックで気を失った人もいたっけ。

マザー・アンジュが呪詛人形を売り出したのも、そういう人たちのストレス解消を目的としてたのさ。
占いの結果に悩む人に、

「落ち込むことはありません。占いの結果は、可能性の一部にすぎないのです。自分が不幸だと思い込んでいては、占いの結果通りの現実がやってきますよ。まずは、自分の心の治療することが大事ですよ」
といって、呪詛人形をすすめるの。

「この人形に、憎い人の名を書いて釘を打ち込むのです」
……まぁ、昔っからある呪詛の方法だよ。
でも、別にその人形を燃やしてもいいし、切り刻んでもよかったみたい。

マザー・アンジュは、呪詛人形を傷つけることによって、相談者のストレスが発散されるって計算したんだよ。
占師の知恵ってやつ?
マザー・アンジュの呪詛人形は、占師のお手製ってこともあって、あっという間にショップの人気商品になったんだ。

口コミ情報で聞きつけた女子高生たちが、さらに人気に拍車をかけたんだと思うな。
一時期、通学鞄に呪詛人形をぶら下げた女子高生のグループを、街でよく見かけたもんだよ。
もっとも呪いが成功したなんて話は、まったく聞かなかったけどね。

喜んでいいことなのか……、悲しむべきことなのか……。
呪詛人形の売れ行きが急に伸びたおかげで、マザー・アンジュが一人で作ってたら、とてもじゃないけど注文に追い付かないってことになって……。
私も、呪詛人形作りを手伝わされることになったんだ。

他にアルバイトはいなかったし、私とマザー・アンジュとで、せっせと呪詛人形を作ったよ。
いつまで、この呪詛人形ブームが続くのかって思いながら……ね。
そんなある日、マザー・アンジュのショップに、私宛で一通の手紙が届いたんだ。

差出人の名前は書かれてなかった。
突然、こんな手紙が届くとドキッとしない?
もしかしたら剃刀が仕込まれてるかも……って、私は、おそるおそる封を切ったよ。
幸い、剃刀は仕込まれてなかったけど……。

この手紙、いったい何だったと思う?
1.抗議の手紙
2.感謝の手紙
3.不幸の手紙
4.ラブレター
5.ファンレター