晦−つきこもり
>四話目(藤村正美)
>E3

あら、ごめんなさいね。

でも、あながち噂といい切れないのは、私たちが一番知っていますわ。
だからこそ、困ることってあるんです。
これは、うちの病院で起きたことなんですけれど……。
一人の患者さんが、入院してきたのですわ。

いいえ、その方が問題だというのじゃありません。
たとえ患者さんに問題があったとしても、それは私たちでカバーして差し上げなくては。
患者さんに、気分良く入院生活を送っていただくのが、私たち看護婦の務めですもの。

私はいつも、そういう気持ちで働いているんですの。
当然のことですわ。
さて、その患者さんは和田さんといって、骨折をしていました。
何でも、階段を踏み外したんですって。
彼が入院した、初めの晩のことです。

消灯後、私は和田さんの病室を訪れました。
熱を出していたら、お薬を出さなければいけませんもの。
そうしたら、病室には先客がいたんですわ。
白衣を着た男の人。
でも、病院の医師ではありません。

それまで、一度も見たことがなかったんですもの。
「具合はどうだい?」
男の人が、口を開きました。
和田さんは、何も疑っていないようでした。
「痛みはないです。もらった薬が、効いてるんだと思います」

「そうか、よかった。あ、僕のことは先生と呼んでくれていいから」
……変でしょう。
けれど和田さんは、何も気づかないようでした。

「はい。それで、先生は何か用なんですか?」
「ああ、実は君の体が、特殊な病気にかかっていることがわかってね」
いきなり、こんなことをいわれて、和田さんはショックを受けたようでした。
無理もないですわ。

けれど、いつの間にそんなことがわかったというのでしょう?
彼が運び込まれてから、そういう診察はまだ、受けていないはずですわ。
和田さんったら、そんなこともわからないんです。
「ど、どうすればいいんでしょう!?」

「安心したまえ。僕が治療すれば、きっと治るとも」
先生は、どんと胸を叩いて、一本の注射器を取り出したのです。
「今日は、これを打って眠りたまえ。本格的な治療は、明日からだ」
先生は、自信たっぷりに微笑みました。

葉子ちゃんだったら、注射してもらいます?
1.もちろん、してもらう
2.冗談じゃない