晦−つきこもり
>四話目(前田良夫)
>A4

つまり簡単にいうとさ、わざとらしいくらい、いいやつなの。
クラスの金魚が気に入ったらしくて、自分から世話をするっていい出したんだ。
変な奴だろ。

でもまあ、俺たちにしてみりゃラッキーじゃん。
園部って、よっぽど魚が好きなんだと思ったよ。
だけどある朝、学校行ったら、金魚の水槽が割れてたんだ。
金魚はみんな、床の上におちてたよ。

……みんな、腹を割かれてさ。
こんなの、事故とかじゃないじゃん。
園部なんか、見たとたんに泣き出しちゃってさあ。
「ひどい……痛かったでしょうに。
かわいそうだわ……」
でっかい目から、ポロッポロ涙こぼしてさ。

真っ白なハンカチ出して、金魚を包んでやってたよ。
素手で、死んだ金魚さわってるから、俺ビックリしちゃった。
キモチ悪いよなあ。
先生は、野良猫が迷い込んだって、いってた。
そうかもしんないな。

だけど、猫って魚の腹、割いたりするのかなあ?
もう一個不思議なのはさ、水槽の破片と一緒に、小さな鏡も割れて、落ちてたんだよなあ。
女子が持ってるような、顔しか映んない、ちっこいやつ。
あれは何だったんだろう?

…………ま、いっか。
事件は、これだけじゃ終わらなかったんだ。
うちの学校って、校庭で動物飼ってんだよな。
金網で作った、でっかい鳥かごみたいな檻でさ。
ウサギとか、うずらとか、アヒルとか、あと小鳥とか。
ダッセーよなあ。

馬とか象だったら、俺だって世話してやるけどさ。
だって、かっこいいじゃん。
その日は、江藤たちと校庭でサッカーやってて、遅くなっちゃったんだ。
帰ろうとしてたら、薄暗い校庭の向こうの方で、バサバサって羽音が聞こえたんだよね。

何の音だろうと思って、見に行ったわけ。
そしたらさ、いたんだよ。
びっくりするくらい小さな人影が、檻の前にさ。
「てめえ、そこ動くんじゃないぞ!」
俺は叫んで、ばーっと走り出したわけ。

ビクッとして振り返ったのは…………園部茜だった。
目がウルウルしててさ。
「小鳥が……小鳥たちが……」
なんつってるわけ。
見たら、檻の中で、いつもピーチクパーチク歌ってるはずの鳥たちが、いないんだよ。

…………ううん、いないように見えたんだな。
床に転がってたからさ……。
小鳥たちは、全部地面に落ちて、動かなかった。
死んでたんだよ。
園部はワッと泣きだした。

俺の後ついてきた江藤が、オタオタしちゃってさ。
放っておこうか、慰めようか、迷ってたんじゃないの。
だけど、俺……変なもの、見ちゃったんだよなあ。
泣いてる園部の手の爪に、羽毛がつまってんのをさ。

ダウンジャケットなんかに入ってる、小さくてフワフワのやつだよ。
葉子ネエ、それって、鳥のどこの羽かわかる?
1.胸
2.足
3.頭のてっぺん