晦−つきこもり
>五話目(真田泰明)
>K4

へえ、信じるんだ。
俺はその時の取材まで、そういった話を信じていなかった。

まあ番組を知らない人もいるだろうから、初めから説明するよ。
その番組の中で取り上げた奇病というのはさ。
世界中を探しても数十人しかいない、ほとんどお目にかかることはないような病気だったんだ。

しかしテレビ番組を作るうえで、先見性というのは重要なんだよ。
本当に問題になったとき、イニシアチブが取れるしね。
それで取材準備を始めたんだ。
まず、病気の概要の調査だった。
その病気というのは、目や体が暗闇で光るというものだった。

ただ最近発生してきたものらしく、まだ子供の患者しかいないんだ。
だから大人になってから、どうなるのかわからないけどね。
それに医学界でも、その病気に対して取り組んでいるところは、まったくなくてさ。

むしろ怪奇現象の研究家や、マニアの中で騒がれている感じのものなんだ。
なぜ怪奇現象としてあつかわれているか、わかるかい。
まあ、番組では扱わなかったけどさ。
その病気にかかった子供は、周りの人間をまるで手足のように使うらしい。

怪奇現象の世界といったらいいのかな。
とにかく彼等の間では、『超人類』として騒がれていたんだ。
俺は予備調査の報告を見た。
そしてその病気に興味を示してくれる医学教授を手配し、小規模の取材チームをつくり、その子供の所に派遣したんだ。

しかし彼等がそこに行くと、機材が壊れ、スタッフが体の不調を訴えだした。
もう彼等は、取材どころではなかったらしい。
取材は失敗に終わったんだ。
伝染病かもしれないと、心配したけどさ。
しばらくしてもスタッフにそんな兆候はなく、ホッとしてた。

そして、取材チームは、別の子供のところに行くことにしたんだ。
そこでは何とか取材ができた。
その子はまだ、生まれて間もなくてさ。
この時点でその病気だとわかることは、殆どないらしい。

ただその子の場合は、親の知り合いに怪奇現象のマニアがいたんだ。
それで、その症状を見抜いたという話だ。
そしてそのマニアの協力を得て、医学的なデータを取ることに成功した。

取材班はその成功に気を良くして、他の子供の取材も行ったんだ。
ただ医学的なデータを取れたのは、その子のもの一つでさ。
六ヶ月を過ぎた子供を取材しようとすると、初めの子と同じように機材が壊れ、スタッフが体の不調を訴え出すそうだ。

「いったい、何なんですかね………」
取材を終え、報告に来たディレクターの沢田さんがそう呟いた。
人の気分が悪くなるのは、病気のせいとも考えられる。
しかし機材も一緒に不調となると話は別だ。

「医学的にはどうかわからないが、電気や磁気を帯びる人間って聞いたこと無いですか」
俺はその奇妙な思いつきを、沢田さんに話してみた。

「まあ……、ちょっと……。とにかく一通り取材は終わったので、教授の調査を待ちましょう」
彼はもう手は尽きたという感じで、そう呟いたんだ。
「それしかないですね………」
俺はそう答えるしかなかった。

葉子ちゃん、このこといったいどう思う。
1.超能力じゃない?
2.湿度とかじゃないかな