晦−つきこもり
>五話目(鈴木由香里)
>H5

そんなことないって?
へーーーーーぇ。
岡本さんの恋だって、大人の恋とは思えないのにさ。
葉子の恋なんて、だいたいの察しはつくんだから。
ま、どっちでもいいや。
恋する乙女の情熱ってさぁ、誰にも止められないもんだって、思い知らされたからね。

彼女も突然、大胆な行動に出たんだ。
何をしたかって?
骨を盗んだのよ。
作業終了の日、彼女は、仕事に来なかった。

みんな、彼女の恋を知っていたから、
「別れが悲しいんだね」
なんていいあってたよ。
その時は、まさか彼女が失踪してるなんて、思いもしなかったからね。
岡本さんは、その日からぱったりと姿を見せなくなったんだ。

家にも帰ってないって、家族から捜索願いまで出されてたよ。
それと……、彼女が姿を消すのと同時に、倉庫にしまってあった人骨がいくつかなくなってたんだ。
その中には、岡本さんが恋してたあの骸骨も含まれてた。

だから、
「別れを嫌がった彼女が、こっそりと骨を持って逃げたんだろう……」
っていうのが、みんなの出した結論だったよ。
彼女、一人娘で絶対に家に心配かけるようなことはしなかったのに。

必死の捜索にもかかわらず、彼女と骨の行方はわからないまま。
「骸骨そっくりの人と暮らしてるのを見た」
とか、
「骸骨の菩提を弔うといって、インドに渡った」
なんて噂がささやかれたけど、どれもすぐに消えてしまったよ。

みんなも、しばらくの間は彼女の噂話で盛り上がってたけど、そのうちに飽きちゃったようだね。

本当はさぁ、私、彼女の消息を知ってるんだよね。
今まで、誰にも秘密にしてきたんだ。
ここで話してもいいんだけどさぁ……。
知りたい?
1.はい
2.いいえ