晦−つきこもり
>五話目(鈴木由香里)
>Q4

身代わり地蔵ってこと?
そうね、刑場跡からもそう遠い場所じゃなかったし、無罪の人の身代わりにお地蔵様がその首を落とす……、なんてこともあったかもね。
でも、そんな奇跡みたいなことが、そう何度も起こるわけないじゃん。

このお地蔵様については、明確な答えがあるんだ。
『神仏分離』っていうんだけど。
知らないだろうなぁ。
明治維新の時にとられた政策で、神道を国教とするために、それまでは一緒に信仰されてた仏教を、切り離したんだって。

日本の宗教って、神道も、仏教も混じり合ってたんだってね。
神社とお寺が別々のものとして考えられるようになったのは、この時からなんだって。

この政策によって、仏教を排斥する運動が起こり、全国各地で仏堂や、仏像、経文なんかが破棄されたんだよ。
もちろんお地蔵様もね。
お地蔵様は石でできてるから燃やすわけにもいかなくて、ことごとく割られていったんだってさ。

なんだか、罰が当たりそうな気もするよね。
発掘されたお地蔵様に首がなかったのは、こういう理由だったんだ。
どう?
学校に行ったら、みんなに自慢してごらんよ。

日本史の時間なんていいんじゃん?
……だけど、私がいいたいのは、そんなものじゃないんだ。
確かに仏様には違いないんだけどさ。
この寺跡にあったのは、お墓だったんだ。

はっきりいって、建物の跡なんてほとんどなかった。
調査する敷地一面、お墓が並んでるだけだったよ。

お墓っていっても墓石や卒塔婆はほとんど残ってないし、残ってたとしても折れてたり、倒されて柱の台に使われてたりで、墓穴とは全然別の場所で見つかるんだ。

墓穴には、骸骨の入った棺桶が並んでるだけ。
昔の棺桶って、今みたいに細長い長方形じゃなくて、丸い樽のような形なんだよ。
土葬が主流の時代だから、当然その中には死体がそのまま納められてる。

もう骨になってるけどさ。
もう時代が古すぎるのと、土の色が染み付いちゃってるのとで、黒かったり茶色かったり黄色かったり、中には多少緑がかってるのまであったっけ。
真っ白い骨なんて一つもなかった。

そんな骸骨の入った桶が何百個もあるんだよ。
なかなかすごい眺めなんだから。
……あら、どうした?
顔色が悪いんじゃん?
1.気持ち悪くなった
2.まだまだ平気