晦−つきこもり
>五話目(藤村正美)
>A4

そう、葉子ちゃんは、そう思うんですのね。
けれど、彼女にはもう、そんなことを考える余裕さえなくなっていました。
皿の熱で温められた死骸のにおいが、たちのぼって鼻につきます。

「うっ!」
たまらなくなって、彼女は食堂を飛び出してしまいました。
階段を駆け登り、自分の部屋に飛び込みます。
ベッドカバーをめくって、もぐり込もうとしたとき。
シーツの上には、血のしたたる猫の生首が置いてあったのです!

半開きの目が、恨めしそうに彼女を見上げています。
「いやああーーーーっ!!」
彼女は悲鳴をあげて、そのまま気を失ってしまったのですわ。
…………暗闇の中、彼女は誰かの声を聞いたような気がして、振り向きました。
そこには、青白い顔が一つ、ぽっかり浮かんでいたのですわ。

しわくちゃで、目の部分が空洞になった、不気味な老婆の顔。
「カエレ……ここから出ていけ……今すぐに……!」
彼女を脅すように、低い声でつぶやき続けるのです。
あなたは誰?
……そう聞こうとしても、顔はどんどん遠くへ消えていきます。

気づいたとき、彼女はベッドに寝ていました。
恭介さんと更紗ちゃんが、のぞき込んでいます。
あわてて起き上がろうとしましたが、体に力が入りません。

「猫……猫の……」
「猫がどうしたんですか?」
恭介さんは、心配そうに聞き返します。
さっきまで、このベッドに猫の首があったのよ……といおうとして、一瞬ためらいました。

どうしてだか、わかりますか?
1.本当にあったことか、わからなくなったから
2.誰の仕業か、見当がついたから